公認会計士・税理士の藤沼です。
EYを退職し、中堅規模の会計事務所に転職しました。
私は独立を視野に入れて転職をしましたが、いざ働いてみると、メリット・デメリットが多く見えてきました。
そこで今回は、会計事務所への転職を考えている会計士向けに、仕事内容・年収・キャリアなどを解説します。
私の体験談や、会計事務所に転職した同僚会計士へのインタビューを基にしていますので、ある程度リアルな内容になったと思います。


29歳
公認会計士
- 大手監査法人:4年 会計監査に従事
- 個人会計事務所:3年 税務申告・FASに従事
会計士が会計事務所に転職したときの「仕事内容」


公認会計士を採用するような会計事務所では、主に次のような仕事を任されます。
- 税務+付随サービス
- FAS
- 監査
それぞれ、具体的に解説します。
税務+付随サービス
メインとなるのは税務です。
税務で携わるサービスラインは、具体的には次のとおりです。
- 記帳代行(+給与計算)
- 巡回監査
- 決算業務(+年末調整)
- 税務申告
- その他、国際税務・資産税コンサル等
基本的に、1クライアントを1人(ないし2人)で担当するため、①~④を一気通貫でサービス提供します。
税務が未経験の会計士の場合、初めの3ヶ月~半年程度は記帳代行・巡回監査を担当し、慣れてきたら一連のサービスに従事するケースが多いようです。
ただし、会計ソフトへの仕訳入力などの簡単な作業はパートや無資格者が行い、そのレビューを会計士が行うなどの役割分担をしている会計事務所が多いでしょう。
イレギュラーな取引がない限り、毎月同じような取引の記帳になることから、単純作業のルーティンワークになります。
一方、国際税務や資産税のコンサルティングなどは、スポットでの関与が求められ、面白味を感じる方も多いでしょう。
※ ただし、国際税務・資産税については税理士の主戦場となるため、会計士が積極的に関与するケースは少ないです。
繁忙期は1月~6月と長く、変則決算が多いと更に繁忙期は増えますが、残業時間は事務所の方針・人員数などによって大きく異なります。
また、会計事務所によっては強みとなる専門性が異なるため、この点は応募前にしっかりとリサーチしておくべきでしょう。
なお、それぞれの具体的な仕事内容についてイメージできない方は、会計事務所での仕事内容を詳細解説します。でさらに詳しく書きました。(別サイトにジャンプします)
FAS
所長が公認会計士の場合、FASにも積極的に関与するケースがあります。
FASといっても種類は様々ですが、会計事務所で関与する可能性のあるFAS業務には、次のようなものがあります。
このうち、最も多いのは財務DDでしょう。
次いで、財務DDに付随する形でバリュエーションを請け負うケースもあります。
ただし、小さな会計事務所ではそこまで緻密な算定を求められず、「既に社内で算出した企業価値を確認するために第三者(会計事務所)に依頼する」といった趣旨のプロジェクトが多く見られます。
また、所長のキャリアによってはIPO・IFRSのコンサルティングに携わることもあります。
もちろん、大手監査法人に比べて品質は低くなりますが、ゼロベースで事例に当たることが多いため、独立後に役立つ経験が多く得られるでしょう。
いずれも、税務に比べると関与度合いは低い傾向にあり、また事務所によっては関与ゼロというケースも多いですから、応募前に業務内容はしっかりと確認してください。
監査
事例としては少ないですが、一部の任意監査業務に携わるケースもあります。
大手監査法人出身者はその知見をフル活用できますが、新たな知見はあまり手に入らず、またクライアント規模が小さいため汎用性は低いと感じます。
特に、BIG4出身の方は「監査が嫌いになった」という方もいるはず。
そんな方は、転職エージェントから求人を入手する際、「監査」をNG項目にしておくと良いでしょう。
会計士が会計事務所に転職したときの「年収」


会計士が会計事務所に転職をすると、多くの場合、年収は一時的に下がります。
具体的な数値としては、転職エージェントの公開している求人を見ると分かります。
実際に大手会計系エージェントの求人を抽出し、集計した結果は次のとおりです。
会計士向け「会計事務所」の年収平均
平均年収 | 求人件数 | |
---|---|---|
全国 | 609万 | 328件 |
東京 | 671万 | 139件 |
公認会計士の転職先は全13種ありますが、この中で最も年収が低いのが、会計事務所の求人でした。
大手監査法人の平均年収が648万円(東京は676万円)ですので、BIG4から転職をする人は、年収が若干下がる可能性を想定しておきましょう。
もちろん、これはあくまで求人票ベースの年収であり、転職時の年収です。
なお、公認会計士の転職先別年収について、詳しくは会計士が転職すると、年収はいくらになる?【全職種調べてみた】でまとめて解説しています。
ちなみに、税理士の年収は?
比較のために、税理士の年収も調べてみました。
税理士向け「会計事務所・税理士法人」の年収平均
平均年収 | 求人件数 | |
---|---|---|
全国 | 560万 | 1,153件 |
東京 | 619万 | 427件 |
こちらは税理士法人も含めていますが、税理士の年収は、会計士の年収に比べて約7~8%ほど低くなっています。
理由はいくつか考えられますが、
そのため、会計事務所での会計士の年収が低いのは、決して会計士が冷遇されているわけではなく、業界全体として低いことが理由と言えます。
ただし、昇給率が高いケースもあり
会計事務所の種類によっては、転職後の昇給率が高く、大きく年収が上がるケースがあります。
たとえば情報インタビュイーのSさんも、転職後3年程度で年収が1,000万に到達しています。
また、私も転職1年目(会計士歴は5年目)で年収900万まで上がっており、意外と会計事務所転職後に年収が上がった方を多く目にします。
年収が上がった人に共通するのは、代表が公認会計士であるという点でした。
一般的な税務に関しては、サービスに対する報酬が低いため、従業員への還元も少なくなります。
しかし代表者が公認会計士の場合、監査・FASを提供するケースがあり、この報酬が高いことから従業員への還元率も高くなる傾向が見られます。
私の所属していた事務所でも、FASに関与している職員は、年収2,000万~3,000万近くがゴロゴロといました。(マネージャークラス)
また、年収面でいえば「後継者候補」として転職するのもアリでしょう。
特に、開業税理士は平均年齢が60歳を超えており、後継者問題を抱えている開業税理士は非常に多いのです。


後継者候補として会計事務所に転職することで、事務所の顧客をそのまま引き継ぐことができます。
新たなクライアントを開拓する必要がないため、独立開業を見据えている会計士にとっては、序盤に大きなハードルをクリアすることができます。
会計士が会計事務所に転職する「メリット」


会計士が会計事務所に転職した場合、次のメリットを感じることができるでしょう。
- 幅広い税務スキルが身につく
- 仕事の成果が見えやすく、やりがいを感じやすい
- 独立のためのスキルが身につく
それぞれ解説します。
① 幅広い税務スキルが身につく
先述のとおり、会計事務所でのメイン業務は「税務」ですから、税務関連のスキルが身につきます。
具体的には、次の税目のスキルが身につきます。
- 法人税
- 住民税
- 事業税
- 所得税
- 消費税
- 源泉税・印紙税・登録免許税など
上記の他、相続税や国際税務などもサービスラインに含まれる場合がありますが、積極的に関与するケースは少ないでしょう。(所長のみが関与するようなケースが多くみられる)
また、給与計算にも関与することがあり、社会保険料の計算など付随的な知識も身につくでしょう。
特定の税目のみに関与するわけではなく、広く税務全般に関与するケースが一般的です。
② 仕事の成果が見えやすく、やりがいを感じやすい
会計事務所のクライアントは比較的規模が小さく、様々な面で、私たち会計士はクライアントに頼られます。
そのため、頼られる・感謝されるシチュエーションが多く、やりがいを感じやすいというメリットがあります。
監査法人ではクライアントから嫌われやすい立場にありましたが、会計事務所ではクライアントを助ける立場にあります。
クライアントに感謝されるシチュエーションが多いため、それがモチベーションアップに繋がることもあるでしょう。
③ 独立のためのスキルが身につく
会計事務所では、所長の仕事ぶりを近い距離で見ることができます。
そのため、事務所経営に必要なスキルを盗むことができるでしょう。
例えば、次のようなスキルです。
- 各サービスの報酬単価・相場感
- 各サービスに必要な人件費
- 各サービスの採算性
- 事務所全体の損益構造
- 人材採用の手法
- 今後注力すべきビジネス領域
これらのスキルは、人から盗むのが最も効率的です。
独力で身に着けることも可能ですが、かなり効率が悪いと感じます。
個人的に、税務での独立を見据えている方は、会計事務所での経験が必須だと思います。
会計士が会計事務所に転職する「デメリット」


会計士が会計事務所に転職した場合、次の点でデメリットを感じるかもしれません。
- キャリアの幅が税務に絞られやすい
- 人員数が少なく、人手不足になりやすい
- 能動的な情報収集が必要
それぞれ解説します。
① キャリアの幅が税務に絞られやすい
会計事務所に転職をすると、その後のキャリアが「税務」に限定されやすい傾向にあります。
というのも、携わるサービスが税務に偏るため、企業会計・監査からはキャリアが遠のくからです。
もちろん3~4年のブランクならすぐに復帰できるはずですが、企業採用者側からすると「税務方向に進んだのに、なぜ会計・監査に戻ってくるの?」という疑念を抱かせることになるでしょう。
監査法人とは異なる専門領域にキャリアチェンジすることになるため、この点は予め理解しておく必要があります。
なお、会計事務所からの転職先・キャリアについては後述しています。
② 人員数が少なく、人手不足になりやすい
一般的に、会計事務所は規模が小さいため、人員数が少ない傾向にあります。
そのため、仕事を一緒に進めるメンバーが少なく、日常で受ける刺激が少なくなるというデメリットがあるでしょう。
また、人材採用に難航している事務所が多く、人が辞めたときのインパクトが非常に大きいというデメリットもあります。
「転職直後はさほど残業時間が発生しなかったけど、事務員さんが1人辞めた途端、激務になった…」というケースもよく耳にします。
このようなリスクを回避するためには、例えば人員構成などを応募前に聞いておくと良いでしょう。
③ 能動的な情報収集が必要
規模の小さな会計事務所では、情報収集・伝達が属人的になりやすく、組織内でのニュースレター等は整備されていません。
そのため、税法・会計基準などの情報を自ら積極的に情報収集する必要があり、この点で手間が増えるというデメリットがあります。
ただし、会計事務所では高度な知識を求められるケースは少なく、最新の会計基準に触れる機会も少ないため、そこまで大きな手間にもなりません。
初めは手間に感じるかもしれませんが、慣れればデメリットをさほど感じなくなるでしょう。
会計事務所を卒業した会計士の「転職先・キャリア」


転職活動においては、その後のキャリアを見据えることも大切です。
なぜなら、将来を見据えない転職は近視眼的になり、転職後のキャリアアップに悪影響を与える恐れがあるからです。
特に、会計事務所はキャリアのフィールドが税務にフォーカスされ、(監査法人時代よりも)選択肢の幅が狭まります。
具体的に、会計事務所を卒業した会計士の転職先・キャリアは次のとおりです。
※ 各職種をクリックすると、関連記事にジャンプします。
会計事務所で得た経験にもよりますが、選択肢はおおむね上記に絞られるでしょう。
つまり会計・監査から離れ、税務系のフィールドにシフトすることになります。
会計事務所内でFASに携わっていた場合には、FASへのキャリアチェンジも選択肢に入るでしょう。
また、独立への足掛かりとなりやすい職種であることもポイントです。
私自身も独立しましたが、会計事務所での経験は今も大きく役立っています。
会計士が会計事務所に転職するときの「注意点」


会計士が会計事務所に転職するときは、次の点に注意する必要があります。
- 所長の性格=事務所の雰囲気になりやすい
- 後継者としての関与には、リスクがつきもの
- 事務所によっては、年中忙しくなるケースがある
それぞれ解説します。
所長の性格=事務所の雰囲気になりやすい
会計事務所は、会計士の転職先の中でも非常に規模の小さい職種です。(もちろん、中には規模の大きな会計事務所もありますが)
そのため、所長の雰囲気=事務所全体の雰囲気になりやすく、予め所長の性格などを知っておく必要があるでしょう。
当然ながら、神経質な所長なら細かなレビューを求められますし、怒りっぽい所長なら委縮しながら仕事をすることになります。
特に、会計士は所長の直下で働くことが多いですから、所長の性格は事前にリサーチしておくべきです。
なお、リサーチ方法としては面接で実際に話すほか、カジュアル面談で話す、転職エージェントから情報を聞き出す、等が挙げられます。
後継者としての関与には、リスクがつきもの
先述のとおり、特に開業税理士は高齢者が多く、後継者を募集することがあります。
転職者としては、独立開業をしなくともクライアントが手に入るため、メリットしかないように感じるかもしれません。
しかし、後継者としての転職にはリスクもあります。
例えば、将来事務所を引き継ぐことを前提に、事務所名に自分の氏名を含めるケースがあります。
しかし、事務所名を変えた後に「やっぱり辞めたい」となった場合、所長に多大な迷惑をかけることになります。
気軽に辞めることができない等の制約が増えるため、将来のリスクを事前に洗い出しておく必要があるでしょう。
事務所によっては、年中忙しくなるケースがある
一般的に、会計事務所の繁忙期は1月~6月です。
しかし、変則決算やFAS等のコンサルも提供する場合、年中忙しくなる可能性があります。
特に、税務は継続顧問契約が多いのに対し、FASはスポットでの契約になるため、忙しくなる時期が想定しづらいというリスクもあります。
この点は事務所の方針によって大きく異なりますから、事前に「事務所としてのサービス」をしっかりと調べておくと良いでしょう。
※ 「自分の仕事内容」ではなく「事務所としてのサービス」を聞いたほうが良いです。
なおサービス内容は、転職エージェントから求人を入手する際に教えてもらうことができます。
会計事務所への転職がおすすめの人(公認会計士限定)


会計事務所への転職は、こんな会計士の人におすすめできます。
- クライアントと近い距離で仕事をしたい人
- 細かな作業・ルーティンワークが好きな人
- 独立開業を見据えている人
それぞれ解説します。
クライアントと近い距離で仕事をしたい人
会計事務所のクライアントは規模が小さいため、「クライアントとの距離感が非常に近い」という特徴があります。
特に、個人事業主のクライアントは税の知識が全くありませんから、色々な意味で私たちを頼ってきます。
そのため、自然とクライアントとの距離感が近くなり、「クライアントのために仕事をしている」という意識を強く感じるようになるでしょう。
この点で、監査法人よりもやりがいを強く感じるはずです。
細かな作業・ルーティンワークが好きな人
会計事務所での仕事は、監査法人とは異なり「1円単位で数値を合わせる」ことが求められます。
サンプリングや(金額的な)重要性という視点はなく、1つの取引に対して、必ずエビデンスを見なければなりません。
そのため誤魔化しが効かず、1つ1つの作業に細やかさが求められます。
また、毎日の作業内容が同質的であるため、ルーティンワークになるのです。
毎日別々のことを考え、プロジェクトをハンドリングしたい人には不向きですが、細かな作業・ルーティンワークが好きな人にはおすすめでしょう。
独立開業を見据えている人
最も向いていると思うのが、独立開業を見据えている会計士です。
私自身も会計事務所に転職した後独立しましたが、会計事務所での経験がなければ開業はかなり難しいと感じました。
理由は「メリット」の項目でも述べたとおり、所長の仕事ぶりを間近で見ることができるからです。
未経験者がいきなり事務所経営を行うことは難しく、経営者からスキルを見て盗むのが手っ取り早いでしょう。
会計事務所なら、幅広く税務に携わり、市場からのニーズの高いFAS領域を知り、経営感覚を見て盗むことができます。
まさに、独立開業にうってつけの環境だと思います。
会計事務所に強い転職エージェント
会計事務所への転職なら、ヒュープロ1択です。
会計士向けのエージェントで最も有名なのはマイナビ会計士ですが、こと会計事務所に限っては、ヒュープロが群を抜いて強いからです。
会計事務所の数は、全国に数多く点在しています。
しかし、先述のとおり「事務所の雰囲気」「サービスライン」は事務所によって大きくことなります。
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