M&A業界に転職した会計士の「仕事内容」と「その後のキャリア」について

M&A業界に転職した会計士の「仕事内容」と「その後のキャリア」について

公認会計士・税理士の藤沼です。

EYを4年半で退職し、M&A系のFASコンサル会社に転職しました。

M&Aのコンサルはとても楽しく、刺激的な毎日でしたが、転職してみて初めて気づいた事も多くありました。

そこで今回は、M&A業界に転職を考えている会計士の方向けに、M&A業界全般について解説します。

基本的に「転職が初めて」という方向けに書きましたので、専門用語をなるだけ少なく書きました。

この記事を書いた人

1986年生まれ(38歳)
公認会計士税理士

2014年 EY新日本監査法人 入社
2018年 中堅コンサル事務所 入社
2019年 藤沼会計事務所 開業
2020年 アカウントエージェント株式会社 代表


目次

会計士が関与できるM&Aの具体的な仕事内容

会計士が関与できるM&Aの具体的な仕事内容

会計士が関与するM&A関連サービスのうち、代表的なサービスは次のとおりです。

会計士として関与するM&Aのサービス内容
  1. 財務DD
  2. バリュエーション
  3. PMI
  4. PPA/減損テストなど

それぞれ解説します。

① 財務DD

財務DDとは、買収対象企業に対して行う会計上のリスク調査をいいます。

M&Aの実行前に行うことで、買収対象企業の想定外のリスクを認識しておき、買収価格を正確に見積もるために行います。

会計監査に非常に似た仕事内容であることから、監査法人出身の会計士がすぐに戦力になれるM&Aアドバイザリーサービスです。

M&Aアドバイザリーの基本とも言えるサービスであり、M&Aに関与する会計士は、ほぼ全員が財務DDを経験するはずです。

② バリュエーション

バリュエーションとは、買収対象企業の価値算定をいいます。

財務DDで得たリスク情報なども基に、価値評価手法(DCF法、類似業種比較法など)により適正価格を算出することで、不当な価格で取引するリスクを防ぎます。

会計士試験での知識がそのまま活用できるため、こちらも会計士に親和性の高いM&Aアドバイザリーサービスです。

財務DDと共に、バリュエーションはM&Aアドバイザリーの王道とも言えるサービスです。

こちらもM&Aに関与する会計士であれば、ほぼ確実に経験するサービスでしょう。

③ PMI

PMIとは、M&Aの実行後に行われる組織の統合作業をいいます。

M&Aでは異なる複数の組織を1つに統合するため、様々なコンフリクトが生じます。

当初期待したシナジーを最大化するためにも、事後的な統合作業が必要になるのです。

PMIはM&Aの実行後にクライアント自身が(外部コンサルタントのサポートを受けることなく)実行することも多いため、財務DD・バリュエーションに比較すると市場規模は小さくなります。

しかし PMIを経験することで、M&A実行後の統合作業を見据えたコミュニケーションが可能になるため、より広い視点での提案ができるようになる、等のメリットも生まれます。

④ PPA/減損テスト

M&Aの実行に伴い、会計上は「のれん(又は負ののれん)」が生じます。

このため、会計上はPPA(取得原価の配分)及びのれんの減損テストが必要となり、この点で会計士に対するニーズがあります。

M&Aに対する直接的なサービスではありませんが、付随的な業務として、会計士の強みを活かすことのできるフィールドです。

会計士がM&Aに関与できる転職先

会計士がM&Aに関与できる転職先

会計士の転職先は全13種あります。

このうち、会計士がM&Aに関与できる転職先は10種です。

仕事内容と合わせて、以下にマトリクス化しました。

会計士がM&Aに関与できる転職先と、仕事内容

財務DDバリュエーションPMI
独立系FAS
BIG4アドバイザリー
中小監査法人
経理(M&A部門)
ベンチャーCFO
会計事務所
経営企画部
PEファンド
投資銀行
税理士法人

〇:関与度合い「高」
▲:関与度合い「低」
– :ほぼ関与できない
※ 税理士法人では、「税務DD」や「組織再編税制」関連でM&Aに関与します。

※ 各転職先をタップすると、関連記事が開きます。

上記はあくまで全体の傾向です。

企業により異なる部分もありますから、転職先を絞る際の目安としてご参考ください。

① M&Aへのファーストキャリアにオススメの転職先は?

M&A未経験の会計士にオススメなのは、「独立系FAS」または「BIG4のアドバイザリー部門」です。

独立系FASの利点は、全てに幅広く関与できることです。

BIG4のアドバイザリー部門は サービスライン毎にチーム編成されるため、他のサービスに関与することが難しかったりします。

そのため、手っ取り早くM&Aの全体像を掴みたい方には、絶対に独立系FASがオススメです。

私も監査法人からの転職先として、独立系FASを選択しました。

一方BIG4のアドバイザリー部門の利点は、各サービスラインでの品質の高い評価手法や、トレンドを知ることができる点です。

BIG4のM&Aに関連するサービスは、業界内では最高品質であり、他の様々な業種(FASやベンチャーなど)で参考にされます。

あるべき形を知り、その後のキャリアに活かしたいという方には、BIG4のアドバイザリー部門がオススメです。

私が転職した独立系FASでも、BIG4アドバイザリー出身の会計士は、かなり頼られていました。(私とほぼ同時期に入社した方でしたが、経験の差を大きく感じました)

あるべき論を学んでからキャリアに活用するか、手っ取り早くM&A全体を学べる環境に身をおくか、どちらが良いかはご年齢やご趣向によるでしょう。

私が転職した時は、まだM&A一本で行こうと踏ん切りがついていなかったため、多種多様な経験のできる独立系FASを選択しました。

② 中小監査法人を選ぶ際は、注意が必要

監査+M&Aのアドバイザリーができる、という中小監査法人も存在します。

ただし、1つだけ注意が必要です。

触れ込みとして「M&Aに関与可能」であっても、プロジェクトを継続的に受託できるとは限りません。

求人を見ると「監査の他にも財務DDやバリュエーションに関与できる」と記載されているケースがありますが、実態としては「割合として1割くらい…」というケースもあります。

中小監査法人でのM&Aを検討されている方は、求人を見て応募する前に、転職エージェント等から実態を必ず聞いてください。

③ 投資銀行、PEファンドは転職難易度「高」

投資銀行とPEファンドについては、M&Aの実務経験がほぼ確実に要求されます。

なぜなら M&Aの知見を前提として、投資判断や意思決定が求められるからです。(基本的にM&Aを基礎から学ぶ場所ではない、と考えておいた方が良いでしょう)

ファイナンス系キャリアの「ゴール」として 投資銀行・PEファンドを設定するのは良いと思いますが、ファーストキャリアとして選択するのはハードルが高いです。

会計士の転職先としての「M&Aコンサルタント」には2種類ある

会計士の転職先としての「M&Aコンサルタント」には2種類ある

M&A系への転職を考えている方は、コンサルタント(すなわちFAS)を志望される方が多いと思います。

少し細かいですが、M&A系のFASは大きく2種類に分けられます。

M&Aコンサルタントの種類
  1. M&Aアドバイザリー(FA)
  2. M&A仲介

M&Aアドバイザリーは、売り手企業 or 買い手企業からの依頼により、財務DD・バリュエーション等のFAサービスを提供します。

一方、M&A仲介でのクライアントは売り手企業 + 買い手企業であり、クライアントが複数になる点で異なります。

① M&Aアドバイザリー

M&Aアドバイザリー

一般的に「M&Aコンサル」と言うと、このM&Aアドバイザリー(FA)を指します。

M&Aアドバイザリーでは、売り手または買い手企業からの依頼により、買収対象会社(売り手企業)の財務DDやバリュエーションを実施する事になります。

当然ながら、相手企業の承諾・協力なしにFAを進めることはできませんので、先方(または先方のFA)と交渉をしながら作業を進める事になります。

ポイントは、依頼企業の目線でレポートを作成することになる点です。

クライアントが1社ですので、当該1社の目線でレポートを作成すれば(基本的には)事足りることになります。

M&Aアドバイザリー事業者の代表例
  • GCA株式会社
  • フロンティア・マネジメント
  • BIG4のアドバイザリー部門 など

② M&A仲介

M&A仲介

M&A仲介では、買い手側+売り手側企業目線での交渉・レポート作成が求められます。

自らが双方にアプローチするため、FA以外の調整業務・交渉が必要になる点が大きく異なります。

なお 会計士向けのM&A仲介求人であれば、通常はFA業務にも従事することができますが、「仲介事業のみ」を提供する会社もありますのでご注意ください。

M&A仲介事業者の代表例
  • 日本M&Aセンター
  • 山田コンサルティング
  • AGSコンサルティング など

会計士がM&A業界に転職した場合の年収

会計士がM&A業界に転職した場合の年収

すでに転職活動を進めている方はご存知だと思いますが、M&Aコンサルティング業界は、年収水準が高いです。

M&Aコンサル会社の年収例
  • GCA:平均1,076万円
  • フロンティア・マネジメント:平均1,080万円
  • 日本M&Aセンター:平均1,221万円

(参考:OpenWork調べ)

上記はM&A業界内でも年収の高い企業ですが、FAS業界は全体的に年収が高いです。

私の場合、会計士歴4年半でFASに転職したところ、年収が700万→900万になりました。

残業時間は多くなる傾向にありますが、若く体力のあるうちに、年収水準を高めておくことが効率的であると感じます。

会計士がM&Aの経験を活かせる転職先

会計士がM&Aの経験を活かせる転職先

M&Aを経験される方の多くは、その後更なるキャリアアップを目指されるでしょう。

そこで、各M&A関連サービスに従事した後、その後の転職先も見てみましょう。

各サービスメニュー
  1. 財務DD+バリュエーション
  2. PMI
  3. PPA/減損テスト

あくまで目安ですので、キャリアプランニング時のイメージとして参考にして下さい。

① 財務DD+バリュエーションの経験を活かした転職先

活用度合い
独立系FAS
BIG4アドバイザリー部門
上場経理(M&A部門)
会計事務所
ベンチャーCFO
経営企画部
PEファンド
投資銀行

財務DDやバリュエーションは汎用性が高く、多くのフィールドで役立てることができます。

会計事務所では、その事務所の意向によって関与度合いが大きく異なります。

ベンチャー・経営企画では、M&Aの頻度によって活用度合いが異なります。

また、PEファンドでは「財務DD・バリュエーション」に直接関与するわけではないものの、当該知識を前提としたプロジェクト指南を行うことになります。

いずれにせよ、財務DD+バリュエーションの経験は、M&A分野での基礎を形成すると言っても過言ではないでしょう。

② PMIの経験を活かした転職先

活用度合い
独立系FAS
BIG4アドバイザリー部門
上場経理(M&A部門)
会計事務所
ベンチャーCFO
経営企画部
PEファンド
投資銀行

PMIはM&A後に発生するフェーズですので、コンサル系(FAS・会計事務所・投資銀行)では活用度合いが低下します。

またPMIは基本的に事業会社自身が行うため、メガベンチャー経理(M&A部門)であれば、経験を大きく活用できるでしょう。

PMIは、財務DD・バリュエーションに比べると汎用性が低下しますが、希少価値は高まります。

③ PPA/減損テストの経験を活かした転職先

活用度合い
独立系FAS
BIG4アドバイザリー部門
上場経理(M&A部門)
会計事務所
ベンチャーCFO
経営企画部
PEファンド
投資銀行

PPA/減損テストは、ファイナンスというよりも適正な会計処理を目的として行いますので、こちらもやや汎用性が低下します。

また、のれんの金額的重要性により「外部コンサルに委託するかどうか」が決まりますので、小規模クライアントではそもそも論点に挙がらない(サービスに繋がらない)という欠点があります。

M&Aに関連するサービスとしてはニッチな領域であり、キャリアの市場規模は小さいです。

会計士の独立においてもM&Aの経験は活かせる?

会計士の独立においてもM&Aの経験は活かせる?

独立について、簡単に触れておきます。

会計事務所として独立する際にも、M&Aの知見は活かされます。

会計事務所=税務と考える方も多いと思いますが、税務フィールドで大きく利益を上げるのは難しく、会計士ならではのサービスラインも武器にした方が効率的であると感じます。

独立に関しては私の本業にも関わるため、あまり大きな声では言えないのですが、M&Aの経験が多少あるだけでもクライアントからの依頼が来ます。

もし独立を視野に入れている方は、代表が公認会計士の会計事務所への転職を視野に入れても良いでしょう。

規模の小さな会計事務所であれば、独立後に何をすべきか具体的にイメージすることができ、(所長の方針にもよりますが)M&A関連のサービスにも従事できる可能性も高いです。

M&Aのやりがいはあった?

M&Aのやりがいはあった?

監査とは違い、M&Aコンサルは非常に楽しいと感じました。

感覚的には監査の100倍は楽しかったですが、具体的には、次の点でやりがいを感じました。

M&Aにやりがいを感じた点
  1. 監査経験を活かしながら、新たなスキルが得られる
  2. 短期プロジェクトが多く、成長スピードが早い
  3. 汎用性が高く、常にキャリアアップを実感した

それぞれ解説します。

① 監査経験を活かしながら、新たなスキルが得られる

私はM&A未経験でFASに転職しましたが、財務DDでは監査の経験がフルに活用でき、バリュエーションは自己学習をしながら業務に従事していました。

会計士としての知識・経験を活かすことができるため、チームに貢献しながら成長することができます。

② 短期プロジェクトが多く、成長スピードが早い

M&Aのプロジェクトは短期プロジェクトが多く、基本的に1~2ヶ月で終わります。

短期プロジェクトを繰り返すため、回転が早く、成長スピードの早さを実感しました。

ただし、成長スピードが早すぎるあまり、成長の高止まりも早い点がデメリットと言えるかもしれません。

③ 汎用性が高く、常にキャリアアップを実感した

これは組織によると思いますが、私の転職したFASでは、レポートの見栄え・フォントや形式などはあまり重視されませんでした。

このため、本質的な作業に集中することができ、汎用性のあるスキルを最短で身に付けられたと感じました。

監査法人時代はムダな作業が多く、「転職先では役に立ちそうにない業務」が多かったため、(個人的には)不満を感じていました。

BIG4のアドバイザリー部門など、大きな組織に転職すると「形式」を重視されますが、中堅以下の組織であれば本質を重視したサービスに従事できるはずです。

M&A志向の公認会計士にオススメの転職エージェント【比較表】

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(Hupro)
レックスアド
バイザーズ
MS-Japan人材ドラフト
マイナビ会計士ヒュープロロゴレックスアドバイザーズMS-Japanロゴ人材ドラフト
総合評価
( 10/10 )

( 9/10 )

( 8/10 )

( 7/10 )

( 7/10 )
求人数約5,000件約2,000件約1,500件約1,500件約500件
対象年代20代~30代20代~50代20代~30代20代~30代20代~50代
対応エリア・関東 
・近畿 
・愛知県
・静岡県
全国全国全国全国
設立1973年2015年2002年1990年2000年
資本金21億210万円2億2740万円6000万円5億8600万円3400万円
対象者公認会計士限定会計・税務会計系全般管理部門全般会計事務所
得意領域公認会計士・経理   
・会計事務所
・監査法人 
・コンサル 
・会計  
・税務  
・コンサル
・FAS   
・監査法人 
会計事務所
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外部サイト:M&Aの仕事とは?M&A仲介など詳しく解説|NewMA

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