監査法人の離職率を分析・算出してみた。

監査法人の離職率を分析・算出してみた。

公認会計士・税理士の藤沼です。

今回は、監査法人の離職率をデータ分析しました。

なお、本記事はやや分析過程が複雑ですので、先に結論だけ載せておきます。

結論
  • 監査法人全体の平均離職率は7%
  • スタッフの離職率は9%
  • シニアの離職率は12%
  • 5年で約4割が退職し、10年で約7割が退職する

このデータ分析では、2種類の異なるデータ・実績値を基礎としており、客観性の高い分析結果です。

加えて私自身が監査法人に在籍していた頃の肌感覚とも整合するため、分析結果の精度は高いと判断しています。

では、計算過程・考察を詳しく解説します。

この記事を書いた人

1986年生まれ(37歳)
公認会計士税理士

2014年 EY新日本監査法人 入社
2018年 中堅コンサル事務所 入社
2019年 藤沼会計事務所 開業
2020年 アカウントエージェント株式会社 代表


目次

監査法人の離職率は、職階ごとに異なる。

監査法人の離職率は、職階ごとに異なる。

離職率の分析においては、「離職率は職階ごとに異なる」という前提をおきます。

そこで、まずはこの前提の確からしさを証明するため、2011年に日本公認会計士協会が実施したアンケート調査結果を参照します。

この調査では、監査法人在籍者を対象に転職に関する意識調査を行っており、ここから職階ごとの転職意識の違いが分かります。

データは少し古いですが、職階ごとの転職に対する意識が数値化されており、非常に興味深いデータです。

監査法人職員の転職に関する意識調査

監査法人の転職に関する意識調査データグラフ
選択肢StSrMgPr全体
今は考えていない47%48%75%85%61.0%
現在転職活動中7%10%3%1%5.6%
1~2年後に予定13%18%11%6%12.4%
3~5年後に予定25%20%8%5%16.2%
6年後以降に予定8%3%3%4%4.8%
合計100%100%100%100%100%
(JICPA「組織内会計士に関するアンケート最終報告」を基に作成)
このデータから分かること
  • スタッフ~シニアは、転職意識が非常に高い
  • マネージャーになると、転職意識が一気に低下
  • パートナーになると、転職する人はほとんどいない

当然といえば当然ですが、社内での職階が上がるにつれて転職意識が低下する傾向にあります。

特に、マネージャーへの昇格が1つのファクターになっているようです。

「現在転職活動中」と回答したシニアは全体の10%であったのに対し、マネージャーになると全体の3%にまで減少しています。

また、「今は転職を考えていない」と回答したスタッフ・シニアは全体の50%以下であるのに対し、マネージャーになると全体の75%が転職を考えなくなっています。

このことから、マネージャー昇格年次となる入社8年目~10年目頃を機に、転職への意識がガラッと変わることが分かります。

(余談)
もし、あなたが8年目~10年目の層に該当するなら要注意。
この層には、①マネージャーに上がったことで社内でのキャリアアップに重きを置き始めた人と、②マネージャーに上がれなかった人とが混在します。
後者が前者と同じような意識でいると、一生キャリアアップできず監査法人内で生涯を終える可能性があります。

以前 会計士の転職にベストな年齢・経験年数は?の記事で検証したとおり、会計士は必要以上に監査法人に居座ってしまう傾向にあります。

この結果、「社内で評価されず、社外からも評価されない…」という最悪のシチュエーションもあり得るのです。

少し話が逸れましたが、以上のデータにより、若手と管理職とでは転職意識が大きく異なることが分かりました。

なお、上記データの「現在転職活動中」=「実際の離職率」とみなすこともできますが、このまま使うにはデータがやや古いです。

そこで、最新の基礎データを用いることでより高い精度の離職率を算出します。

監査法人における「公認会計士全体」の離職率

まず結論です。

大手監査法人における公認会計士全体の離職率は約7%です。

C:各監査法人の離職率・全体の離職率

BIG4全体の公認会計士の離職率推移グラフ
新日本あずさトーマツあらた全体
2014-20156%5%6%4%5%
2015-20168%4%6%2%6%
2016-201710%4%5%△1%6%
2017-201810%6%6%0%6%
2018-20198%7%6%3%7%
2019-20206%7%8%3%7%
2020-20216%7%6%8%7%
2021-20227%8%7%4%7%
全期間平均8%6%6%3%6%
(算出過程は下記のとおり)

(2023年12月1日現在のデータ)

2014年からデータを並べてみましたが、離職率がどんどん上がり続け、直近では7%まで上がっています。

各離職率の算出過程は、次のとおりです。

算式)
C(n-1~n年度)=(A(n-1年度)- A(n年度)+B)÷ A(n-1年度)

説明)
A:各年度における公認会計士+合格者の員数
B:各年度の公認会計士+合格者の採用人数
C:各監査法人における離職率

なお、各年度における採用者数(B)は公表されていないため、BIG4でリクルーター・面接官をしていた筆者の知見をベースに、下記の数値を利用しています。

B:各年度の公認会計士+合格者の採用人数

定期採用者数中途採用者数
新日本・トーマツ・あずさ250名30名
あらた80名15名

もちろん年度や法人によって採用者数は異なりますが、概ねこの水準で推移しています。

次に、上記結果の考察をします。

(結論)大手監査法人全体の離職率は7%

上記データのとおりですが、大手監査法人全体の(会計士+試験合格者の)直近の離職率は、約7%であることが分かりました。

このデータの考察は以下のとおりです。

大手監査法人全体の離職率に関する考察
  • 2015年~2018年頃にかけて、新日本(EY)の離職率が高い
  • 全期間を平均すると、あらた(PwC)の離職率が低め
  • 2014年から離職率は右肩上がりで増加

BIG4毎に離職率を見ると、EYにおける2015年~2018年の離職率が一時的に増加しています。

これは、東芝による会計不正事件が強く影響しています。(新規入所者が減った影響+離職者がやや増えた影響)

しかし、結局BIG4同士で試験合格者を奪い合うため、BIG4全体で見るとほぼ影響はありません。

また、あらた監査法人は人員数が少ないため変動幅が大きくなっていますが、あくまでBIG4全体で見れば影響はありません。

そして、何といっても離職率が右肩上がりであることがポイント。

これは、私たち公認会計士の就職難が解消されたことを示しています。

公認会計士は2011年まで就職氷河期状態でしたが、2012年から就職問題が大きく改善されました。

現時点でもそれは変わらず売り手市場であることから、転職市場も売り手市場が続いています。

(参考)全体の離職率の基礎データ

監査法人の離職率算出にあたって利用した基礎データも掲載しておきます。

(単なる基礎データの羅列なので、ここは読み飛ばしても大丈夫です。)

A:各年度における公認会計士+合格者の員数

(単位:人)

新日本あずさトーマツあらた合計
2014年4,5754,1584,3691,25614,358
2015年4,5814,2464,3901,29914,516
2016年4,4814,3604,3921,36714,600
2017年4,3124,4624,4741,47514,723
2018年4,1734,4724,5041,57714,726
2019年4,1254,4404,4981,62214,685
2020年4,1424,4184,4161,67514,651
2021年4,1864,3854,4161,63814,625
2022年4,1764,3284,3921,66714,563
平均4,3064,3634,4281,50814,605
(各法人の「業務及び財産状況報告書」を基に作成)

(2023年12月1日現在のデータ)

いずれも年度末の数値。
なお、新日本・あずさ・あらたは6月末、トーマツは5月末が年度末である。

監査法人における会計士の「職階別」の離職率

監査法人における会計士の「職階別」の離職率

大手監査法人全体における公認会計士の離職率は、約7%であることが分かりました。

これを先述の「監査法人職員の転職に関する意識調査」データにあてはめます。

すなわち、公認会計士協会のアンケート調査データは古いため、全体の離職率がやや低め(5.6%)でしたが、これを最新版の離職率(7%)に巻き直すことで最新の職階別離職率を算出します。

その結果が次のとおりです。

職階ごとの公認会計士・合格者の離職率

選択肢StSrMgPr全体
今は考えていない46%47%74%85%60%
現在転職活動中9%12%4%1%7%
1~2年後に検討予定13%18%11%6%12%
3~5年後に検討予定25%20%8%5%16%
6年後以降に検討予定8%3%3%4%5%
合計100%100%100%100%100%

(2023年12月1日現在のデータ)

※「現在転職活動中」を当年度中に離職する者と仮定し巻き直した。
 また、差額は他の選択肢の比率で各選択肢に割り振ることで、合計値が100%になるように修正。

(結論)スタッフの離職率は9%、シニアの離職率は12%

計算過程が長くなりましたが、やっと結論です。

各職階の離職率(最新版)
  • スタッフの離職率  :9%
  • シニアの離職率   :12%
  • マネージャーの離職率:4%
  • パートナーの離職率 :1%

(2023年12月1日現在のデータ)

以上が、最新の職階別離職率です。

数値だけを見ても実感が湧かないと思いますので、比較情報として、厚生労働省による雇用動向調査による調査結果を載せておきます。

  • 医療・福祉業  :約9%
  • 教育・学習支援業:約12%

スタッフの時点で、医療従事者と同水準の離職率です。

かなり高い離職率であることが分かるでしょう。

(参考)10年間で約7割が辞める。

上記で算出した離職率を利用し、n年後に残っている人の割合を算出してみました。

なお、最初の4年間はスタッフの離職率(9%)を適用し、残りの6年間はシニアの離職率(12%)を適用します。

最短だと9年目前後でマネージャーに昇格できますが、ストレートでマネージャーに昇格する人は少ないため、10年目までシニアの離職率を適用しました。

n年後に監査法人に残っている人の割合

n年後残っている人の割合
1年後91%
2年後84%
3年後77%
4年後70%
5年後62%
6年後54%
7年後48%
8年後42%
9年後37%
10年後32%

おおよそ「5年で4割が辞めて、10年で7割が辞める」という結論です。

私の肌感覚としても、かなり実態に近い数値であると感じます。

以上、BIG4においてn年後に残っている公認会計士の割合算出結果でした。

中小監査法人の離職率は、法人によって大きく異なる

中小監査法人の離職率は、法人によって大きく異なる

上記では、大手監査法人を対象に離職率を分析しました。

一方、中小監査法人はどうなのか?というと、これは法人によって異なります。

私はEYを辞めた後に独立し、中小監査法人で(非常勤職員として)働いていました。

たまたま働き始めた中小監査法人ですが、労働環境がBIG4とは大きく異なり、驚くほどワークライフバランスの取れる環境でした。

当時、四半期はほぼ残業なし&期末監査では1日2~3時間の残業程度。

このような中小監査法人は多いです。

一方で、大手監査法人と同水準の激務な中小監査法人もあります。(特に準大手監査法人はその傾向が強い)

中小監査法人の労働環境は千差万別ですから、離職率も法人間で大きく異るのでそしょう。

なお、各中小監査法人の離職率を知りたい場合は、転職エージェントに確認してください。

公開されている募集要項や求人票などに「離職率」は明記されませんので、聞き出す必要があります。

なぜ、会計士は監査法人を辞めるのか?

なぜ、会計士は監査法人を辞めるのか?

監査法人の離職率が高いことは間違いありませんが、なぜ、多くの公認会計士が監査法人を離れるのでしょうか。

以前【なぜ?】会計士が転職する理由アンケート結果 の記事内で主な転職理由をリサーチしました。

その結果、「激務であること」や「業務がつまらない」等、ネガティブな理由で転職する人の方が多いことが分かりました。

もちろん「キャリアアップのため」等、ポジティブな理由で転職される方もいますが。

ちなみに私自身は、ネガティブな理由が7割・ポジティブな理由が3割程度でした。

ネガティブな転職理由については 監査法人を辞めたい。私がBIG4を退職した後、どうなったのか にまとめました。悩みを抱えている方は参考になるかもしれません。

監査法人を1年~2年で辞めるのはアリ?

監査法人を1年~2年で辞めるのはアリ?

監査法人1年目~2年目で、すでに転職を考えている方も多いでしょう。

私も月1くらいの頻度で、J1~J2の方から転職の相談をされます。

あくまで私の個人的意見ですが、2年目であれば辞めるのはアリですが、1年目で辞めるのはあまりオススメしません。

というのも、1年目はまだ経験できていないことが多すぎるからです。

監査法人を1年で辞める場合のデメリット
  • 1年間を通したスケジュール感覚が身につかない
  • (期末監査を経験していない場合)ゴールが分からないため、期中の手続きの趣旨が理解できない

監査法人での新人時代はつらいです。

私も1年目はこっぴどく叱られました。(社会人としても半人前でしたし、監査人としても要求水準を満たせていなかったと思います)

確かにチームによっては本当にヤバいチームもありますが、そんな時は配置換えを希望するという手段もあります。(大手監査法人であれば希望は通りやすいですから)

ただし、本当に無理な場合は転職をすべきです。

大手監査法人では精神を病んでしまう方、体調を崩してしまう方が多いですが、そこまでして頑張る必要はありません。

身体の方が大切に決まっています。

大手監査法人を辞めたいと本当に感じたら、それは辞めるべきだと思います。
転職はむしろチャンスですから。

監査法人の離職率に関するよくある疑問

その他、監査法人の離職率に関連したよくある疑問をまとめました。


監査法人を退職して後悔していますか?

いいえ、全く後悔していません。

むしろ辞めて良かったと思っています。

私は転職をしてみて、公認会計士資格の価値の高さに驚きました。

合わない環境で仕事を続けるよりも、自分に合う環境・適切に評価してくれる環境で働く方が、自分の人生にとって有益だと思います。

監査法人はどこがいいですか?

一概に言えません。

しかし、次のような基準で監査法人を探すことをオススメします。

  • 離職率
  • 平均残業時間
  • 想定年収
  • アサイン予定のクライアントの場所
  • 法人・チームの雰囲気

特に、離職率は「働きやすさ」を示す客観的な指標です。

良い組織なら人は辞めませんから、離職率が低い監査法人=働きやすい監査法人と考えて間違いありません。

実際、私が関与していた中小監査法人は離職率が1%以下でしたが、良い意味でゆるい法人でとても働きやすいと感じました。

監査法人を辞めた後の選択肢は?

公認会計士の転職先は、全13種あります。

具体的な職種は、次のとおりです。

  1. 経理
  2. 内部監査
  3. 経営企画
  4. ベンチャーCFO
  5. 大手監査法人(アシュアランス)
  6. 大手監査法人(アドバイザリー)
  7. 中小監査法人
  8. FAS
  9. 戦略コンサル
  10. 会計事務所
  11. 税理士法人
  12. 投資銀行
  13. PEファンド

ワークライフバランス・やりがい・目指す専門性など、ご自身の趣向にあった転職先を選んでください。

会計士の転職先について、詳しくは次の記事でかなり詳細に解説しています。


離職率の低い監査法人の探し方

離職率の低い監査法人の探し方

離職率の低い監査法人は、転職エージェントに登録し、転職エージェント経由で離職率を聞きだすことで分かります。

先述のとおり、離職率を公開している監査法人はほぼゼロです。

監査法人に直接問い合わせて聞くことも可能ですが、ファーストコンタクトで「離職率を気にする職員」を採用したいと思う法人は少ないでしょう。

しかし、転職エージェント経由で間接的に聞くことで、氏名を伏せた状態で情報を入手することができますから、先方からの印象も悪くならずに済みます。

公認会計士におすすめの転職エージェントは次の記事で紹介していますので、ご参考ください。

目次