公認会計士・税理士の藤沼です。
最近、やけに中小監査法人へ転職される会計士が増えています。
私自身も中小監査法人での勤務経験がありますが、確かに、BIG4時代と比べて圧倒的に働きやすいと感じました。
しかし、気になるのは「年収」です。
「中小監査法人に興味はあるけど、年収が下がるのも困る…」という方も多いでしょう。
そこで今回は、中小監査法人に転職したときの年収を調べたので、結果を紹介します。
結論としては、全体的に大手監査法人よりも年収水準が高いため、転職先としてオススメできる選択肢です。
中小監査法人の公認会計士の年収


先に結論ですが、中小監査法人における公認会計士の年収は 平均約1,043万円 です。(残業・賞与込み)
「高すぎでは?」と感じる方もいるとと思いますが、パートナーも含めた職員全体の年収なので、肌感よりも高いと感じる方が多いかもしれません。
計算手順は次のとおりです。
- JICPAアンケート調査結果から、職階別年収データを抽出
- ①のデータを基に、職階別平均年収を算出
- 各BIG4公表の業務及び財産状況報告書を基に、職階別職員割合を算出
- ②・③を加重平均し、BIG4における平均年収を算出
- 大手転職エージェント公開の求人データを抽出
- ⑤のデータを基に、BIG4・中小監査法人それぞれに転職した時の会計士の平均年収を算出
- ⑥のデータを基に、BIG4の年収に対する中小監査法人の年収倍率を算出
- ④に⑦を乗じることで、中小監査法人の職員全体の平均年収を算出
やや計算が複雑です。
しかし、実際にBIG4・中小監査法人のそれぞれで働いていた身として、結果は肌感覚にも馴染むと感じます。
イメージ的に「BIG4のほうが年収は高いはず」と思っている人も多いようですが、実際は逆でしょう。
なお、BIG4も含めた会計士全体の(転職時の)年収については、下記の記事で詳細解説しています。
次に、参考として具体的数値を示した計算過程を掲載します。
(参考)計算過程
職員年収の計算過程はかなり長くなるため、読み飛ばしても差し支えありません。
では、中小監査法人での年収を計算してみましょう。
まず職員の職階別年収分布を参照します。
①大手監査法人法人職員の職階別年収分布
(単位:人)
年収 | St | Sr | Mg | Pr |
---|---|---|---|---|
~300万 | 4 | 1 | – | 2 |
~350万 | 4 | – | 1 | – |
~400万 | 12 | 2 | – | – |
~500万 | 170 | 6 | – | 3 |
~750万 | 336 | 151 | 10 | 1 |
~1,000万 | 12 | 203 | 151 | 3 |
~1,500万 | 1 | 12 | 178 | 50 |
~2,000万 | – | – | 11 | 118 |
~2,500万 | – | – | 1 | 51 |
~3,000万 | – | – | – | 38 |
3,000万~ | – | – | – | 23 |
合計 | 539 | 375 | 352 | 289 |
これを基に、各職階の平均年収を算出します。
②人員数と年収の積数から導いた職階別平均年収
(単位:万円)
年収 | St | Sr | Mg | Pr |
---|---|---|---|---|
300 | 1,200 | 300 | 0 | 600 |
325 | 1,300 | 0 | 325 | 0 |
375 | 4,500 | 750 | 0 | 0 |
450 | 76,500 | 2,700 | 0 | 1,350 |
625 | 210,000 | 94,375 | 6,250 | 625 |
875 | 10,500 | 177,625 | 132,125 | 2,625 |
1,250 | 1,250 | 15,000 | 222,500 | 62,500 |
1.750 | 0 | 0 | 19,250 | 206,500 |
2.250 | 0 | 0 | 2,250 | 114,750 |
2.750 | 0 | 0 | 0 | 104,500 |
3.000 | 0 | 0 | 0 | 69,000 |
合計 | 305,250 | 290,750 | 382,700 | 562,450 |
平均年収 | 566 | 775 | 1,087 | 1,946 |
年収の積数は、各年収帯の中央値と人数の積数で示しています。
また「~300万未満」は300万とし、「3,000万~」は3,000万として計算しています。
次に、法人全体としての年収を求めるべく、各職階の人員数割合を求め、職階ごとに積数を算出ます。
③各職階の人員数割合と、職階別積数
St | Sr | Mg | Pr | |
---|---|---|---|---|
平均年収 | 566万 | 775万 | 1,087万 | 1,946万 |
職員割合 | 29% | 32% | 26% | 13% |
積数 | 164万 | 248万 | 283万 | 253万 |
積数を合計すると、BIG4における平均年収が算出されます。
④BIG4における職員全体の平均年収
164+248+283+253 = 948万円
次に、大手転職エージェントから求人データを全て抽出し、転職時における大手監査法人・中小監査法人の平均年収をそれぞれ算出します。
以下はその抽出結果です。
⑤・⑥ 大手・中小監査法人の転職時の年収平均値
- 大手監査法人:649万円
- 中小監査法人:716万円
これにより、大手監査法人に対する中小監査法人の年収倍率が算出できます。
⑦ 中小監査法人の年収倍率(対BIG4比)
(716 – 649)÷ 649 ≒ 10%
ということで、中小監査法人は大手監査法人に比べ、約10%年収が高いということが分かります。
これを、先に求めたBIG4職員の平均年収に乗じます。
⑧ 中小監査法人職員全体の平均年収
948万円 × (1 + 10%)= 1,043万円
以上より、中小監査法人職員全体の平均年収は、1,043万円であると算出できました。
もちろんあくまで仮定計算ですから、絶対的なものではなく、参考値としてご利用ください。
東京事務所の年収は、もっと高い?
大手転職エージェントの求人データを抽出・集計すると、地域ごとの年収差が大きいことが分かります。
下記は、当該求人データを地域別に比較した結果です。
東京 | 東京以外 | 全体 | |
---|---|---|---|
大手監査法人 | 676万 | 639万 | 648万 |
中小監査法人 | 741万 | 699万 | 716万 |
このデータによれば、東京での求人は、全国の求人に比べて3~4%程度年収が高いことが分かります。
仮に東京での年収増加率が3%であると仮定すると、東京事務所での中小監査法人職員の平均年収は次のように算出されます。
1,043 × (1 + 3%)= 1,074万円
念のため繰り返しですが、上記はパートナーも含めた全職員の年収平均です。
スタッフ層からすると「高すぎでは?」と感じるかもしれませんが、昇格が進めばこの水準です。
また、中小監査法人ではBIG4よりもパートナー昇格へのハードルが低いため、高所得者層が多くなることも理由の1つに挙げられます。
(参考)厚生労働省「賃金構造基本統計調査」はアテにならない。


よく、厚労省による「賃金構造基本統計調査」を基に年収を算出しているサイトを見かけますが、この調査は全く参考になりません。
なぜなら、この調査で明かされている職種に「監査法人」という職種(産業)は無いからです。
もちろん「サービス業」といった大きな括りで算出はされていますが、監査法人に限定した調査結果ではありません。
また、「公認会計士・税理士」という職種の賃金データは算出されているものの、税理士が含まれているほか、こちらも監査法人に限定した調査結果ではありません。
そのため、厚労省による賃金構造基本統計調査を参照し年収を算定しているサイトは、全て嘘だと思って差し支えありません。
中小監査法人のパートナーの年収


中小監査法人に転職した後、パートナーへの昇格を視野に入れている方も多いはずです。
ここでは、中小監査法人のパートナー陣の年収について、平均年収を算出します。
ただし 中小監査法人では、パートナー層における理事クラスの占める割合が高いと想定されるため、ブレ幅はかなり大きいはずです。
先述の職員別年収の計算過程で少し触れましたが、ここまでの計算過程をすべてまとめると、中小監査法人のパートナー平均年収は次のとおりです。
東京 | 全体 | |
---|---|---|
中小監査法人のパートナー | 2,204万 | 2,140万 |
中小監査法人におけるパートナーの平均年収は、平均2,100万~2,200万という結論です。
ただし、前掲の年収分布からも分かるとおり、中央値は1,500万~2,000万の層でしょう。
BIG4でパートナーになるにはハードルが非常に高いため、中小監査法人でパートナーを目指すという選択は大いにアリだと思います。
特に、昨今は大企業の粉飾決算が目立つようになってきました。
BIG4でパートナーになれたとしても、社会的影響度の高い大企業を担当し、結果として粉飾が見抜けなかった場合、立場を追われるリスクも高いのです。
監査に絶対はありませんから、規模の小さな(ある意味でリスクの低い)クライアントを担当できる中小監査法人でパートナーになる、という選択は合理的であるとも言えます。
中小監査法人のサービスラインごとの年収の違い


中小監査法人での業務は、BIG4とはやや異なるケースがあり、例えば監査業務とアドバイザリー業務の両方に関与することがあります。
実際に中小監査法人の求人を見てみると、「監査+M&A」「監査+IPO」といった採用枠での募集も散見されます。
そこで、サービスラインをカテゴライズしたうえで、各カテゴリーの年収を比較してみました。
平均年収 | 求人件数 | |
---|---|---|
監査+アドバイザリー | 716万 | 24件 |
監査+IPO | 726万 | 4件 |
監査のみ | 715万 | 84件 |
計 | 716万 | 112件 |
結論、サービスラインの違いによる年収は、ほぼ変わりませんでした。
中小監査法人でのアドバイザリーは、そもそも依頼件数が少ないため、報酬への反映度が薄いためと考えられます。
なお、中小監査法人での働き方については、中小監査法人への転職が、意外とオススメな理由【働いてみた感想】で詳細解説しています。
中小監査法人の非常勤職員の年収


監査法人での非常勤は、総じて時給単価での契約です。
監査法人非常勤がオススメな理由でも解説しましたが、非常勤職員の時給は 平均7,000円以上 です。
中には、時給単価10,000円以上の求人まであります。
また、残業時間も非常に少ない傾向にあります。
1日7時間(残業なし)働いた場合、勤務日数別の年収は次のようになります。
勤務日数と年収
年間勤務日数 | 時給7,000円 | 時給10,000円 |
---|---|---|
30日 | 147万 | 210万 |
50日 | 245万 | 350万 |
100日 | 490万 | 700万 |
150日 | 735万 | 1,050万 |
200日 | 980万 | 1,400万 |
250日 | 1,225万 | 1,750万 |
仮に週5日勤務した場合、年収は1,200万~1,700万まで上がります。
しかも残業なし。
ちなみにこの水準は、BIG4におけるシニアクラスの方の水準です。
私も中小監査法人で非常勤職員をしていましたが、正直かなり美味しい仕事だと感じました。
BIG4だと時給単価が半分くらいになるので、中小監査法人の方がオススメです。
中小監査法人の監査トレーニーの年収


一部の監査法人では、公認会計士受験生を監査トレーニーとして採用しています。
監査トレーニーとは、公認会計士短答式受験生や論文受験生を対象に、監査法人内で働きながら受験を目指せる任意の制度をいいます。
受験生としては、勉強をしながら監査法人での実務に触れることができ、また予備校費用・生活費も稼ぐことができるメリットがあります。
大手監査法人(BIG4)でも募集をしていますが、こちらは採用倍率が非常に高く(推定10倍以上)、かなりの狭き門です。
一方で、中小監査法人では若手人材が不足しており、なぜか中小監査法人でトレーニーを志望する受験生が少ないため、採用倍率が非常に低いです。
そのため、監査トレーニーを目指すのであれば、中小監査法人の方がオススメです。
中小監査法人の監査トレーニーの月収はまちまちですが、大体 月20万円 が相場です。
ただし、監査トレーニーに最も大切なのは「雇用条件」です。
なぜなら、一番の目標は「公認会計士試験に合格すること」だからです。
監査法人によっては、たとえば繁忙期であっても残業をなしにしている法人や、時短も認めている法人など様々です。
また、予備校費用の負担についても、法人によっては負担してもらえないケースがあります。
給与も大切ですが、しっかりと雇用条件を調べた上で、選考に応募するようにしましょう。
なお、監査トレーニーについて詳しくは 監査トレーニーの求人の探し方と、内定率を高める方法 でまとめていますので、興味のある方は参考にしてください。
中小監査法人の年収に関してよくある疑問


そのほか、中小監査法人の年収に関するよくある疑問は、次のとおりです。
- 中小監査法人では、新卒採用をしていますか?
-
原則、新卒採用はしていません。
中小監査法人では「公認会計士」または「監査トレーニー」の採用がほとんどだからです。 - 監査法人では、年齢によって年収が変わりますか?
-
監査法人では、年齢による年収差はまずありません。
スキル・経験年数などにより年収が決まります。
20代・30代・40代であっても、経験年数・スキルが同程度であれば、基本的に年収はさほど変わりません。 - 副業OKの中小監査法人もあるって本当?
-
本当です。
私自身も副業OKな中小監査法人で働いていましたし、求人をざっと眺めればすぐに見つかります。
BIG4では副業がほとんどできないため、副業をしたい方は中小監査法人がオススメです。 - 無資格者でも中小監査法人に転職できますか?
-
監査トレーニー以外の無資格者はほぼ採用されません。
BIG4とは違い、事務職員やアシスタントの割合は非常に低いです。 - 中小監査法人では、USCPAの採用は行っていますか?
-
USCPAを採用している中小監査法人もありますが、数としては少なめです。
中小監査法人にオススメの転職エージェント


以上、中小監査法人職員の年収を、詳細リサーチしてみました。
私の肌感覚ともマッチしたため、精度は高いはずです。
最後に、中小監査法人への転職におすすめのエージェントを紹介しておきます。
結論から言えば、マイナビ会計士1択です。
なぜなら、唯一の会計士専門エージェントであり、監査法人の求人数が最も多いからです。
中小監査法人の数は、200社以上あります。
自ら求人を探すことは極めて困難ですので、大手エージェントを使い、効率的に求人をピックアップすると良いでしょう。
\ かんたん3分で登録完了 /
/ 会計士向け求人数 No.1 \



