公認会計士の藤沼です。
私は経理業務の代行サービスを提供しており、日々、様々な企業様の経理部さんとコミュニケーションをしています。
弊社にも「経理事務の仕事に興味がある」という方から、採用面接の応募をよく頂きますが、未経験者の方も多いです。
そこで今回は、経理未経験者の方向けに「経理の仕事内容」をわかりやすく解説します。
前半ではできる限り専門用語を使わず分かりやすく解説し、後半では少しずつ経理の知識を深めていただくため、具体的なお話を交えて解説します。
経理の仕事に興味のある方は、ぜひ最後まで読んでください。
経理の仕事内容サマリー
仕事内容 | 説明 |
---|---|
日次取引の仕訳起票 | 日々の取引・事象を会計ソフトに入力する。入力は「複式簿記」の原則に基づき、必ず証憑(請求書や契約書など)を基に入力する。 |
月次決算 | 日々入力した仕訳を基に、月次の試算表を作成する。月次で損益・資産管理ができるため、経営管理層への除法提供が可能になる。 |
財務諸表の作成 | 貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書等を作成する。 |
税務申告 | 作成した財務諸表をベースに、法人の確定申告書を作成する。なお、外部の税理士に業務を委託している場合は、作成された申告書のレビューを行う。 |
IR資料の作成 | 投資家に向けた報告用資料を作成するケースがある。 |
各部署との連携調整 | 日々の取引の証拠となる「証憑」は、経理部内で作成するもの以外にもある。各部署と連携し資料を入手するほか、場合によっては各部署に作成を依頼する。 |
資金管理 | 現金、預金、有価証券等の残高管理を行い、資金繰りを把握する。 |
債権管理 | 売掛金の回収状況を管理し、回収の促進や滞留債権の管理を行う。回収可能性が悪化している場合には、回収実績率などを基に貸倒引当金を計上する。 |
債務管理 | 買掛金、未払金等の支払管理を行い、支払期日の管理を行う。支払い遅れが生じると、組織の信用問題に関わる。 |
固定資産管理 | 固定資産の取得、減価償却、処分等を管理する。毎年資産価値の判定を行う必要があり、大きな企業では「減損会計」という特有の論点が発生する。 |
予算管理 | 部門別・費目別の予算管理を行い、実績との比較分析を行う。予算と実績のズレを把握することで、将来の予算計画の策定に役立つ情報が得られる。 |
内部統制 | 適切に押印されているか、正しく数値が転記されているか等、内部統制を整備する。特に上場企業では厳しくチェックがなされる。 |
※ 上記はかなり具体的な仕事内容ですので、本記事ではこれを分かりやすく解説します。
2010年 日商簿記検定1級 取得
2013年 公認会計士試験(論文式) 合格
2014年 EY新日本監査法人 入社
2018年 中堅会計事務所 入社
2019年 藤沼会計事務所 開業
2020年 アカウントエージェント㈱ 設立
経理支援サービス会社を経営しています。
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経理の仕事内容をわかりやすく解説
経理部の仕事を分かりやすく一言で表現すると、「会社のお金を管理する仕事」です。
会社の運営は基本的に分業制であり、各部署が得意とする専門分野をそれぞれ担当します。
具体的には、例えば次のような部署が存在します。
一般的な企業の部署一覧
部署名 | 内容 |
---|---|
経理部 | 「お金」に関する部署 |
法務部 | 「法律」に関する部署 |
営業部 | 「売る」に関する部署 |
総務部 | 「事務」に関する部署 |
人事部 | 「人材」に関する部署 |
システム部 | 「IT」に関する部署 |
経営企画部 | 「会社の舵取り」に関する部署 |
それぞれの部署には専門的な役割があり、各部署が各役割に特化して仕事をします。
会社が大きくなればなるほど、部署もさらに細かくなり、より専門性が増していきます。
その中で、経理部は「お金」に特化した部署なのです。
「お金を管理する仕事」が必要な理由|会社の儲けを計算するのが目的
「お金を管理する仕事」と言われても、イメージが湧かない方も多いでしょう。
ここで言う「お金を管理する」という意味は、私たち個人が「お金を盗まれないように保管しておく」といった意味ではありません。
経理の仕事をもう少し具体的に言えば、「お金の流れを把握する仕事」です。
- 何にお金を使ったのか?
- いつお金を使ったのか?
- いくらお金を使ったのか?
- いくら儲けたのか?
等、お金の流れに関する情報を記録しておくことで、会社のお金のムダ使いや1年間の儲けなどを把握することができ、今後の予算作成にも大きく役立つのです。
本来は経営者が自分でできれば良いのですが、専門的な知識が必要となる上、組織が大きくなると1人で回すには限界が出てきます。
そこで「経理部」という部門を作ることで、会社のお金の管理を任せることができるのです。
経理の最終目的|決算書=会社の成績表を作成するのがゴール
ここまでは、初心者の方にも分かりやすいようにマイルドな表現で解説しました。
ここからは、少しだけ専門用語を交え、より具体的に解説します。
先述で経理の仕事は「お金の流れを把握する仕事」と表現しましたが、具体的には「決算書を作る」というのが経理の最終目的になります。
内容 | |
---|---|
最終目的 | ・決算書の作成 ・(確定申告書の作成) |
誰に向けて作る? | ・株主 ・債権者 ・経営者 ・(税務署) |
主に必要な専門知識 | ・帳簿の記入方法に関する知識 ・税金の知識 |
主に使うツール | ・会計ソフト ・Excel |
決算書とは、「会社の成績表」を意味します。
また 決算書は複数あり、正式名称は「貸借対照表」「損益計算書」といいます。
「貸借対照表」ではその会社に残っている財産を示し、「損益計算書」ではその会社の1年間の成績を示します。
この決算書を作成することで、その会社のお金の流れ・その会社の価値を示すことができるため、経理部のゴールは「決算書を作ること」と言い換えることができます。
誰のために決算書を作るのか|株主・債権者・経営者のため
ここまでは分かりやすく「経営者のために決算書を作る」という前提でお話しましたが、決算書の利用者は経営者だけではありません。
会社に出資をしている株主、そして会社にお金を貸している債権者(=銀行など)に対しても、会社のお金の運用実績を示すことで、引き続き会社員投資してもらうことができるのです。
決算書を作成するためには「会計ソフト」に日々の取引を入力していきますが、入力のためには「簿記」と呼ばれる記帳方法(入力方法)に関するルールを知る必要があります。
また、会社も私たち個人と同じように「税金」を納める必要がありますから、1年に1度、確定申告書を作成します。
この確定申告書は、決算書をベースに作成するため、確定申告書の作成にも役立ちます。
ちなみに、会計ソフトに入力する数値の基礎資料をMicrosoft Excelで作成するケースが一般的ですので、Excelに関する基本的な知識も必要になります。
どのタイミングで経理の仕事が発生するのか|日々常に発生する
ここまで読むと、「経理の仕事って楽そうだな」と思う方もいるかもしれません。
しかし、実際はそんなに暇でもありません。(暇な会社もありますが…)
なぜなら、会社のお金は毎日・常に動き続けているからです。
たとえば、
- 顧客と契約をした
- 土地を借りた
- 家賃を払った
- 銀行から利息をもらった
- 商品が売れた
- 在庫を仕入れた
- 有価証券の価値が下がった
など、会社の「お金」に関連する出来事は毎日発生します。
決算書・確定申告書の提出は年に1度のタイミングですが、経営者は自社の業績をタイムリーに知りたいでしょう。
そのため、日々の取引を毎日会計ソフトに必要な情報を入力することで、お金の流れをタイムリーに把握する必要があるのです。
経理の仕事の1日の流れ
ここまで、経理の仕事をわかりやすく簡単に紹介しました。
ここでは、実際に経理で働くスタッフの1日の仕事の流れを紹介します。
なお、毎日行う業務のことを日次業務と呼びます。
経理の1日の仕事の流れ(若手職員を想定)
時間 | 業務内容 |
---|---|
9:00 – 9:15 | 出勤・メール確認など メールを確認し、経理部内・他部署からの連絡事項などをチェック |
9:15 – 10:00 | 出納業務 銀行口座への入出金記録の確認、必要な取引の入出金の実行など |
10:00 – 12:00 | 仕訳伝票の起票 前日~ここまでで発生した取引を、会計ソフトを用いて仕訳入力する もちろん、取引の元資料(請求書・領収書・契約書など)も取り寄せる |
12:00 – 13:00 | 昼休み |
13:00 – 14:00 | 各種銀行へ 保有している銀行口座を用いた取引について、通帳に記帳を行う また、会社内で管理する小口現金を引き落とす |
14:00 – 15:00 | 従業員の経費精算 従業員による立替金・仮払金などについて、請求書・領収書を整理する 整理した請求書・領収書等を基に、会計ソフトを用いて経費計上する |
15:00 – 15:30 | 請求書・納品書等の送付 取引先への売上取引に関する請求書・納品書等の送付 |
15:30 – 17:00 | 日次取引の仕訳入力 当日分の日次取引について、元資料を取り寄せた上で仕訳伝票を起票 |
17:00 – 17:45 | その他、事務処理 特に検討事項がなければ、集めた書類のファイリング作業等を行う |
17:45 – 18:00 | メール確認・退勤 通常期は定時あがりが多い |
なお、ここで紹介する1日のスケジュールは、あくまで通常期の例示に過ぎません。
また、上記の業務は年次の低い方を想定しており、年次が上がるにつれて伝票入力・資料整理は担当しなくなり、より本業に近い勘定科目に関する検討や、部下の入力した伝票のレビューなどを行うようになります。
1日のスケジュールは、会社の規模・職階・方針など様々な要因によって異なりますので、あくまでイメージする上での参考として活用してください。
以下、主要な業務内容について解説します。
出納業務とは「お金の入金・出金」を把握・管理・処理する仕事
出納業務とは、日々増減する現金・預金の入出金情報を把握・管理・処理する業務をいいます。
具体的には、例えば次のような業務を行います。
- 銀行口座の入出金明細を1つ1つ確認し、新たな入出金があれば、元となる資料・取引と照合させる
- 請求期日の到来した取引について、期日通りに銀行口座へ入金されているか確認する
- 現金出納帳(現金の取引記録)の残高と、現時点の現金残高が一致しているか確認する
出納業務を行うことで、銀行口座・現金の増減について異常な取引がないことを確認できます。
なお、出納業務はあくまで「入出金」に関連する取引が対象ですから、現金・預金を介さない取引は出納業務の対象となりません。
「現金・預金を介さない取引なんてあるの?」と思う方もいるかもしれませんが、現預金を介さない取引も多くあります。
例えば、クレジットカード決済による取引や掛取引(売掛金・買掛金)などは、適時に銀行預金残高・現金残高を増減させることには繋がりません。
仕訳の起票とは「会計ソフトへの取引の入力作業」をいう
仕訳の起票とは、会計ソフトへの仕訳入力をいいます。
経理では、日々の取引・事象をすべて「簿記」という知識を用いて会計ソフトに入力していきます。
「仕訳」は、次のような形式で入力・表示されます。
借方勘定 | 借方金額 | 貸方勘定 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
売掛金 | 1,000,000 | 売上 | 1,000,000 |
上記は、掛取引により1,000,000円の売上を計上した仕訳です。
借方(左側)と貸方(右側)に、それぞれ取引の内容を示す「勘定科目」と「金額」を入力することで、取引を表現しています。
なお、左側の合計金額と右側の合計金額(ここでは1行なので合計金額はそれぞれ1,000,000円)は必ず一致する、というルールがあります。
上記の仕訳はほんの一例ですが、基本的には取引全てに対して上記のような仕訳を積み上げていき、最終的に決算書を作成することになります。
また、全ての取引について経理部員1人で仕訳を起票するケースは少なく、通常は経理部内で勘定科目(取引の名称のようなもの)を分担し、自分の担当する勘定科目に関連する仕訳を起票していくことになります。
取引を仕訳として入力する以上、その取引が実在することを確認するため、たとえば上記のケースでは「自社が発行した納品書」を確認することで、納品書通りの金額を入力します。
経費精算とは「従業員立替金の払い戻し」「従業員への仮払金補填」をいう
経費精算には、次の種類があります。
実費精算 | 会社の従業員が行った立替払いした経費について、記録した上で現金・預金から払い戻す処理 |
仮払清算 | 予め従業員に対して渡した現金・預金のうち、利用された分を経費計上した上で再度仮払金を補充する処理 |
営業マンが多く在籍するような会社では、たとえば毎日のタクシー代を立替払いしてもらい、自社に戻ってきた際に現金を渡すようなケースがあります。
経費精算も経理部の仕事の1つであり、「何にいくら使ったのか」を仕訳として起票することになります。
実費精算時の仕訳例
借方勘定 | 借方金額 | 貸方勘定 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
旅費交通費 | 10,000 | 現金 | 10,000 |
上記は、従業員に対して「タクシー代10,000円」を現金で渡した場合の仕訳です。
簿記の知識がまだない方は理解が難しいと思いますが、要は、経理では上記のような「仕訳」を日々積み上げて入力していくのです。
経理の仕事の1年間のスケジュール|繁忙期と閑散期がある
会社には「決算月」というものがあり、自由に決算月を決めることができます。(多くの会社は3月を決算月としています)
たとえば、個人の確定申告は1月~12月の所得に基づいて行われますが、3月を決算月とする会社の確定申告は4月~3月の所得に基づいて行われます。
ここでは、3月決算の非上場企業を前提に、経理の1年間のスケジュール(例)を掲載します。
月 | 業務内容 |
---|---|
1月 | 前年度の年末調整作業 ・法定調書、給与支払報告書の提出 払調書の作成、提出 償却資産申告書の作成、提出 |
2月 | |
3月 | 年度決算の準備 現金実査、実地棚卸 |
4月 | 年度の決算書作成に係る業務 |
5月 | 決算書類の作成 法人税、住民税、事業税、消費税の決算申告、納付 株主総会招集通知の作成 |
6月 | 定時株主総会 |
7月 | 夏季ボーナスの算定、支給 社会保険の算定基礎届の提出 労働保険の年度更新、労働保険料の納付 |
8月 | |
9月 | |
10月 | |
11月 | |
12月 | 年末調整の準備 冬季ボーナスの算定、支給 |
上記の中には日次業務(日々の取引に関する仕訳計上など)は含めていません。
小難しい名称が並んでいますが、事前に全てを理解しておく必要はなく、あくまで1年間のスケジュール全体をイメージしていただければOKです。
3月決算会社における繁忙期は4月~5月であり、この時期が1年の中で最も忙しくなります。
繁忙期の残業時間は、組織や人員数などにも左右されます。
超ホワイトな会社であれば、繁忙期であっても月10時間の残業で終わるケースがあります。
経理の仕事は会社の組織形態によっても異なる
ここまでで、ごく一般的な会社の経理での仕事内容・年間スケジュールを紹介しました。
しかし、実は経理の仕事というのは「会社の組織形態」によっても大きく異なります。
大まかには、次のような4種の組織形態によって経理の仕事が異なります。
それぞれの組織形態について、経理の仕事内容を解説します。
非上場企業|ステークホルダーが少なく「税法基準」での処理が多い
証券取引所に株式を上場していない会社を、非上場企業といいます。
そもそも会社が「決算書」を作成する第一の目的は、「株主・債権者」に対して情報を開示することにあります。
しかし、非上場企業では株主・債権者の数が限られているため、決算書作成に関するルールがやや緩和されています。
具体的には、非上場企業では原則として「金融商品取引法」の規制がなく、有価証券報告書(金融商品取引法に則って作成した決算書のこと)を開示する必要がありません。
しかし、非上場企業であっても確定申告書を作成する必要はあります。
そこで、「税法」に則って決算書を作成することになります。
いわゆる簿記検定で学習するのがこの「金融商品取引法」に基づく処理方法であり、簿記検定では「税法」の会計処理は学習しません。
そのため、非上場企業では主に税法基準(具体的には法人税法)で仕訳を起票し、決算書を作成する点を知っておきましょう。
※ 金商法・税法いずれも基本的な考え方は同じですが、細かな処理方法が異なります。
法人税を申告する際に提出が必要な決算報告書は以下の書類で構成され、これらが税法基準で作成されるということです。
書類名 | 内容 |
---|---|
貸借対照表(B/S) | 企業の決算日当日における財政状態を明らかにする書類 |
損益計算書(P/L) | 会社の一定期間の経営成績を確認できる書類 |
株主資本等変動計算書 | 貸借対照表の会計期間における純資産の部の変動を表した書類 |
販売費及び一般管理費の明細 | 販管費(商品・製品を販売するために直接かかる費用や会社全般の業務の管理費用など)の内訳と金額をまとめた書類 |
個別注記表 | 貸借対照表や損益計算書などの決算書に記載されていた注記を1つの書面として一覧にして表示した決算書の補足書類 |
非上場企業(IPO準備会社)|上場審査を受けるための業務が増える
IPO(株式の上場)を目指す非上場企業の場合、一般的な非上場企業での業務に加えて、次のような業務が追加で加わります。
- 四半期決算(四半期報告書)の作成・開示
- 有価証券届出書の作成
- 監査法人対応
上場企業では「四半期決算」という制度が義務化されており、3ヶ月に1度、決算書を作成しなければなりません。(ただし、これを半期に1度で良いとする法案提出があったため、近い将来変わる可能性があります。)
また、上場をするためには監査法人による監査を受ける義務があり、監査法人への対応業務も経理の仕事の中に含まれます。
更に、株式上場をするためにはある程度の会社規模が必要となるため、M&A(買収など)といったイレギュラーな意思決定が増え、複雑な会計処理の検討課題が増えます。
以上のことから、IPOを目指す会社では業務が非常に忙しくなる傾向にあります。
非上場企業(大会社)|連結決算が必要に!監査法人の目も入ってくる
「大会社」とは、資本金が5億円以上、または負債が200億円以上ある会社をいいます。(会社法第2条6)
非上場企業の中でも「大会社」に該当する会社では、次の業務が追加的に必要になります。
- 監査法人対応
- 連結計算書類の作成
大会社では、会計監査人(監査法人)による監査を受ける義務があるため、こちらも監査法人対応が業務に加わります。
監査対応では、監査法人に所属する公認会計士から様々な書類(証拠書類)の提出を求められるほか、数値の増減に関するヒアリングなどを受けることになります。
会社によっては「監査対応の窓口となる人」を決めたり、または「各人がそれぞれ窓口となる」という方針を決めていたりと様々です。
監査対応自体は(通常は)そこまで大変ではありませんが、慣れない方や忙しい時、シビアな状況(利益が少ない会社)では煩わしさを感じることがあります。
上場企業|金融商品取引法に基づいて様々な業務が発生!
上場企業では、更にやるべき業務が増えます。
- 連結決算
- 四半期決算書(四半期報告書)の作成・開示
- 有価証券報告書の作成・開示
- 監査法人対応
- 内部統制監査への対応
上場企業(有価証券報告書提出会社)では、「連結決算」が義務化されるため、子会社・関連会社を有している場合には連結決算書を作成しなければなりません。
連結決算書の作成は、通常の決算書の作成とはやや異なる専門的な知識が必要であり、主に簿記1級で学習します。
また、「内部統制」というものを厳格に構築する義務が課されており、内部監査部門による監査を受けることになります。
そして、四半期決算・監査法人対応も求められることから、上場企業の経理では求められる業務がとても増えることになります。
中には上場企業であっても緩やかな働き方が実現されている経理部もありますが、基本、上場経理は(繁忙期は)やや忙しくなります。
逆に、上場経理はレアな経験を積むことができるため、私はオススメのキャリアであると思います。
経理事務に求められる能力・スキルは?
経理事務に求められる能力は、以下のとおりです。
それぞれ解説します。
簿記の知識|日商簿記2級レベルは最低限で必要になる
経理の仕事で第一に必要なのが、簿記(会計)に関する知識です。
簿記の知識がなければ仕事にならない、と言っても過言ではありません。
簿記の知識を得るためには、「日商簿記検定試験」を学習するのが最も手っ取り早いです。
日商簿記検定には1級・2級・3級がありますが、取得するなら簿記2級までは必ず取得すべきです。
なぜなら、簿記3級は取得してもさほど就職に役立たず、簿記2級取得者へのニーズが最も高いからです。
また、「簿記1級」については上場企業の経理を目指す方は取得しても良いと思いますが、非上場企業の経理を目指す方は取得する必要がありません。
なぜなら、簿記1級で学習する主な内容に「連結会計」という分野がありますが、連結会計は基本的には上場企業でのみ活用するスキルだからです。(そして難易度がかなり高い)
全商簿記・全経簿記など「日本商工会議所以外」の団体が実施している簿記検定もありますが、私は日商簿記を絶対にオススメします。
なお参考までに、日商簿記検定1級・2級・3級のそれぞれ合格に必要な勉強時間の目安は以下の通りです。
独学 | |
---|---|
簿記3級 | 100~150時間 |
簿記2級 | 150~300時間 |
簿記1級 | 500~800時間 |
税法の知識|初めはなくても大丈夫!働きながら身に付ける
先述のとおり、非上場企業(IPO準備会社・大会社を除く)では「税法」をベースに仕訳・決算書を作成します。
具体的には「法人税法」の知識が必要になります。
また、上場企業・非上場企業に限らず、仕訳を起票する際には「消費税法」の知識も必要になります。(1つ1つの取引について、それぞれ消費税が課税されるか否かを判断し、仕訳を起票する必要があります)
これらの税に関する知識は、税理士試験科目の「法人税法」「消費税法」でそれぞれ学習することができますが、そこまで学習する必要はありません。
どちらかというと、経理における税法の知識は働きながら身に付ける方が多いです。
知識として押さえておくと良い「代表的な税法」の種類は、以下の通りです。
- 法人税
- 消費税
- 所得税
- 固定資産税
Excelの基本スキル|ピボットテーブル・Vlookupくらいは使えるように
経理では会計ソフトに仕訳を入力しますが、いきなり直接入力するわけではありません。(もちろんそのような場合もありますが)
中にはExcelで自ら金額を計算した上で、その数値を会計ソフトに入力するケースもありますし、関連部署から集めたExcelの計算を読み解いて会計ソフトに入力するケースもあります。
そのため、Excelの操作スキルは必須です。
とはいえ、Excelスキルといってもそこまで高いレベルのスキルは要求されません。
私が監査法人(経理を監査する組織)に入所した時は、色の変え方や印刷方法すら分からない同期の公認会計士がチラホラいました。
具体的なスキルとしては、Vlookup関数やSumif関数、ピボットテーブル辺りが使えれば十分でしょう。
わざわざアピールするほどのスキルではありませんので、面接ではサラッと使えることを話す(または履歴書に記載しておく)程度が良いでしょう。
経理として知っておくと便利な代表的なエクセル関数の一例は、以下の通りです。
関数 | 内容 |
---|---|
VLOOKUP関数 | 表を縦方向に調べ、検索条件に一致したデータを取り出すことができる関数で大量のデータの中から、求めるものだけを瞬時に探し出せる |
SUMIF関数 | 指定した条件に見合うデータだけを合計する関数でシステムから出力した大量のデータの中から、条件に合う数値だけを合計できる |
IF関数 | 条件に従って表示を変える関数で、数値基準によって会計処理の判定に活用すると便利 |
COUNTIF関数 | 指定した範囲から検索条件を満たすセルの個数を返す関数で、数値の整合性やエラーチェックにも活用できる |
ROUNDDOWN関数 | 数値の小数点や一定単位の端数を切捨て表示する関数で、表示単位以下の端数を切捨て表示することが多い決算資料作成で活用すると便利 |
コミュニケーション能力|部署間での連携が必要不可欠!
意外と重要なのが、コミュニケーション能力です。
経理では仕訳を起票しますが、仕訳を起票するためには元となる資料・情報が必須です。
売上を計上するためには納品書(いつ何をいくらで売ったのかが分かる情報)が必要ですし、家賃を計上するためには契約書・請求書が必要です。
これらの資料を会社内の様々な部署から取り寄せる必要があり、また経理は「期限」のある仕事ですから、提出の遅い部署には督促をする必要があります。
また、イレギュラーな取引がありそうな場合には、当該部署・担当者に事前に連絡しておき、必要な書類を指示しておくといったケアも必要です。
経理業務の中で頻繁に登場する代表的な証憑書類は、以下の通りです。
書類名 | 内容 |
---|---|
契約書 | 取引が成立したことを証明する書類で、取引の基礎となる書類。会計処理をするために原点に立ちかえり、契約書をチェックすることも多い |
請求書 | 商品やサービスの提供に対する対価として金銭を請求するための書類で支払業務をおこなう際に証憑として必ず内容を確認する書類 |
納品書 | 発注者が注文した品物と納品された品物が一致しているかを確認するために使用される書類で、会計処理をおこなう日付を確認する際などに必要となる証憑 |
領収書 | 支払いがあったことを証明する書類で、特に経費精算業務では必要不可欠となる証憑 |
稟議書 | 担当者が起案をして上長が承認を行う社内で回覧される書類で、契約や支払い処理などがそもそも社内でしかるべき決裁者の承認が取れているものか確認するための証憑 |
会社の各部署・各担当者が行った取引を経理部員が(書類・情報を)まとめ上げる、という立場にあるため、各部署の担当者とのコミュニケーションが必要になります。
しかし、中には「こんな書類なぜ必要なの?」「もっと早く言ってくれ」「前にも同じ書類渡さなかった?」「細かすぎない?」など、様々なクレームを受けるシチュエーションがあります。
こんな時にもスムーズにやり取りを進めるためには、コミュニケーション能力が必須なのです。
(喧嘩をしてしまうと必要な書類が得られず、仕訳を入力できなくなり、自分の仕事が進みませんからね。)
そのため、経理の面接では「質問に対してスムーズな回答ができるか」をよく見られています。転職エージェント等を活用し、必ず面接対策を万全にしましょう。
経理の仕事が向いている人の特徴4選
次のような人は、経理の仕事が向いています。
- 責任感のある人
- 細かな作業が得意な人
- コミュニケーションが好きな人
- 学習意欲のある人
経理部はお金を管理し、業績を明らかにする部署であるため、一人のミス・不正が会社に大きな影響を与えます。
そのため、責任感をもって仕事に取り組める人は経理に向いています。
また、経理の仕事はある種パズル的な要素もありますので、細かな作業が得意な人にも向ています。
そして意外と思われる方も多いですが、経理は他部署との連携・上司や役員への報告を行う機会が多いため、コミュニケーション能力が問われます。
特に初めは分からない事だらけですから、コミュニケーションが好きな人にも経理は向いています。
さらに、会計の世界は座学での知識がそのまま活用できるため、学習意欲のある人も経理に向いていると思います。
毎年改正される税法や会計基準の知識をアップデートすることで仕事の質を高めることができますし、上位資格(公認会計士・税理士・USCPAなど)を取得することで更なるキャリアアップも見えてきます。
経理の仕事のやりがいとは?
経理の仕事にも、当然やりがいがあります。
私自身も10年以上会計の世界で働いていますが、本当にやりがいのある業界だと思っています。
具体的には、次のような理由でやりがいを感じています。
- 自己学習を仕事に活用できる
- 専門的知識を高めることができる
- 決算後の達成感
経理の仕事では、会計基準・税法・会社法・金商法など、様々な原則・法律を活かすことになります。
裏を返せば、座学として会計基準等を学習することで、そこで得た知識をそのまま仕事に役立てることができるのです。
営業・人事・企画・総務などでは、自己学習を仕事にそのまま活かすシチュエーションは少なく、どうしても経験・センス等が問われます。
学習した知識が実務で役立った時はやりがいを感じますし、転職市場での評価にも繋がります。
また、経理の仕事には「決算」というゴールがあるため、毎年決算に向けて仕事を進めることになります。
決算期は忙しくなりやすいものの、1年間の努力の積み上げであることから、決算後はある種の達成感を感じることができます。
経理は「営業」「マーケティング」等のように組織の売上に直結する仕事ではありませんが、仕事それ自体に面白味を感じるシチュエーションは沢山あります。
経理の仕事は将来なくなる?→10年前から言われているけどなくならない
「経理の仕事はAIに代わられて、将来なくなるのでは?」という質問、よく目にします。
ということで、今話題の最新AIに聞いてみました。
結論、AIによって経理の仕事がなくなることはありません!
…という冗談は置いといて。真面目に解説します。
こうした質問は、おそらく2014年にオックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン博士が発表した「未来の雇用」という論文に起因しているでしょう。(注:リンク先はPDFです。)
同論文によれば、「10年後になくなる仕事」として経理・会計に関連した仕事は、次のように掲げられていました。
順位 | 仕事内容 | 確率 |
---|---|---|
8位 | 税務申告書作成者 | 99% |
12位 | データ入力作業員 | 99% |
37位 | 給与計算担当者 | 97% |
114位 | 会計・監査担当者 | 94% |
2014年時点で「10年後」ですから、もう10年経ちますね。
はい。結論。なくなりませんでした。
今現在も2014年と同じように経理の仕事はありますし、何なら売り手市場です。
経理の仕事がなくならない(AIに代替されない)根拠として、フォーマットが無限に存在することが挙げられます。
経理では、主に書類(請求書・領収書など)をもとに会計ソフトに入力する仕事がありますが、元になる書類のフォームが一律に決まっていないため、自動で読み込むことは不可能です。
現時点でもカメラ撮影によって領収書を読み取るアプリ等はありますが、これらも精度が十分ではなく、間違った読み取りもされるケースがあります。
そしてAIが取り沙汰されてから10年間、まるで何も変わっていません。
私自身、現在進行形で多くの企業の経理に関わっていますが、AIを活用している事例など目にしたことがありませんし、BIG4(大手監査法人)に在籍する元同僚に聞いても、そんな会社はほぼ見かけないと言います。
実務家の私の肌感覚としても、まだまだこの先10年~20年、経理の仕事がなくなることはないと確信しています。むしろAIを活用することで、より専門性の高い業務に集中でき、スキルアップできると思います。
また、最近では「Chat-GPT」の出現によりAIの活躍が注目されていますが、そもそもGPTは言語モデル(人間のようなテキストを返すモデル)であり、システムの自動化に直結するものではありません。
全てをまとめて「AI」と表現されますが、その領域は細分化されており、全てに応用できるわけではありません。
結論、今後も経理の仕事がなくなることはありません。
経理の仕事内容に関するよくある疑問
その他、経理の仕事内容に関するよくある疑問をまとめました。
経理の仕事内容一覧を教えてください
経理の仕事内容一覧は、次のとおりです。
- 現預金の管理(出納管理)
- 売掛金の管理(回収期間・入金の管理・取りまとめ)
- 買掛金の管理(支払サイト・出金処理・取りまとめ)
- 保有有価証券の価値算定
- 手形・小切手の管理
- 税金・社会保険料などの納付手続
- 証票を元にした仕訳伝票の起票・レビュー
- エクセルへのデータ入力
- 領収書・請求書・契約書等、書類の管理・ファイリング
- 人件費に関する給与台帳への登録(年齢・基本給・残業時間など)
- 固定資産台帳への登録(耐用年数・減価償却方法などの登録)
- 連結修正仕訳の起票・レビュー
- 残高試算表の作成
- 残高試算表データの増減分析
- 決算書の作成
なお、上記業務一覧はほんの一例です。
実際には会社・職種・担当する勘定科目・年次・規模などにより異なり、様々な業務を担当することになります。
経理になるために勉強すべきことは?
未経験者・初心者の方が経理になるために勉強すべきこととして、私は次の2つをオススメします。
- 簿記の学習
- 興味のある会社の決算書を読み込む
簿記の学習は、第一に行うべきでしょう。
志望する会社が上場会社の場合には、簿記1級まで学習すると良いですが、中小企業の場合には簿記2級があればまず十分でしょう。
次にやるべきことは、ご自身の興味ある会社・業種の決算書を読み込むことです。
これは非常に効果があり、私が新人公認会計士だった頃は、決算書を深く深く読み込むことで勉強していました。
決算書は経理部が最終的に作成するゴールであり、ゴールを意識することで自分のやるべき事・学習すべきとが明確になります。
おすすめですよ。騙されたと思って挑戦してみて下さい。(初めはかなり大変だと思います)
経理の平均年収はどのくらいですか?
経理全体の平均年収は、620万円です。
ただし、これはあくまで全ての経理マンの平均値であり、経験者・未経験者、公認会計士・無資格者、東京都内・地方など、様々な属性が混在しています。
各属性の細かな年収帯については、経理の平均年収をデータ分析をもとに徹底解説。の記事内で詳細リサーチしています。
経理は未経験者だと採用されないですか?
いいえ、未経験者であっても経理に採用されるケースはあります。
採用されるケースはいくつかありますが、「若さ」または「会計事務所での実務経験」があると経理経験がなくとも採用されやすくなります。
また、外資系企業の経理では、未経験であっても「英語力」があれば採用されるケースがあります。
企業によって求める人物像は異なるため、一概に未経験者=採用されない、というわけではありません。
40代ですが未経験で経理に就職できますか?
結論から言えば、かなり難しいです。
ただし、「英語力」「M&Aに関する実務経験」「IPOに関する実務経験」「管理部門でのマネジメント経験」「ITに関する実務経験」があると、40代未経験者であっても経理に採用されるケースがあります。
経理事務への転職で有利になる資格は?
経理事務への転職で有利になるのは、次の資格です。
- 簿記2級・簿記1級
- 公認会計士・税理士
- TOEIC(700点以上)
簿記1級は難易度が高い一方で活かせるシチュエーションが少ない(求めている企業が少ない)ため、ケースバイケースです。
上場会社・大会社でない限り、簿記1級まで取得する必要性はあまり感じません。
その他、IFRS導入企業(主に外資系企業です)であればIFRS検定も良いでしょう。
経理の仕事がきついと感じるシチュエーションは?
経理の仕事がきついと感じるシチュエーションには、例えば次のようなケースがあります。
- 繁忙期に業務が夜遅くなる
- 他部署の担当者との関係性が悪く、なかなか資料を出してくれない
勤務年数を重ねるごとに、繁忙期にも慣れ、周囲との関係性も改善することができるでしょう。
新卒で経理の仕事をするのは難しいですか?
初めは難しいと感じるでしょう。
なぜなら、経理業界は高い専門性が求められるからです。
簿記検定で基礎を学習することはできますが、実務で求められるスキルは簿記以外にも様々あります。
不安な方は、経理業務を経験できる長期インターンに参加するのもおすすめです。
経理の仕事は未経験だと難しいですか?
はい、未経験で経理の仕事をすると初めは大変さを感じるでしょう。
しかし、これは専門職であれば当然であり、その他の専門職も同様です。
未経験で経理の仕事を始める場合には、まずは「簿記2級」を取得しておくことをオススメします。
簿記2級では経理の基礎的な知識を覚えることができますから、新人経理マンには最適の資格です。(断言)
【比較表】経理に強い転職エージェント(未経験者向け)
最後に、経理向けの大手転職エージェントを比較してみました。
ヒュープロ (Hupro) | MS-Japan | レックス アドバイザーズ | ジャスネット キャリア | 人材ドラフト | |
---|---|---|---|---|---|
求人数 | 約2,000件 | 約2,500件 | 約1,000件 | 約1,000件 | 約500件 |
対象年代 | 20代~50代 | 20代~50代 | 20代~30代 | 20代~30代 | 20代~50代 |
対応エリア | 東京都内 | 全国 | 全国 | 全国 | 全国 |
設立 | 2015年 | 1990年 | 2002年 | 1996年 | 3400万円 |
得意領域 | 経理 会計事務所 | 経理 内部監査 経営企画 | 公認会計士 税理士 | 士業 | 会計事務所 |
特徴 | 東京の経理に強い | 全国の経理に強い | 士業に強い | 補完的 | 補完的 |
総合評価 | (10/10) | (9/10) | (7/10) | (7/10) | (6/10) |
評判口コミ | 評判を見る | 評判を見る | 評判を見る | 評判を見る | 評判を見る |
公式サイト | 公式サイト | 公式サイト | 公式サイト | 公式サイト | 公式サイト |
私は、東京都内の経理ならヒュープロ、地方の経理ならMS-Japanをオススメします。
転職は、人生を左右する大切なイベントです。
ぜひ上記の比較表を参考に、ご自身に合った転職エージェントを選んでください。
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1988年生まれ(36歳)
公認会計士・税理士
2012年 日商簿記1級 合格
2013年 公認会計士試験(論文式) 合格
2014年 EY新日本監査法人 入社
2021年 ニューラルグループ株式会社 入社
2024年 ARMS会計株式会社 代表取締役
前職では上場会社の経理部長として勤務し、現在は経理・財務支援サービス会社を経営しています。
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