公認会計士・税理士の藤沼です。
Webサイトを色々と巡っていると、「簿記1級があれば食いっぱぐれない」と断言されている方がおられました。
ハッキリ言いますが、簿記1級があっても食いっぱぐれる人は居ます。
当たり前です。簿記1級は単なる検定資格ですから。
公認会計士・税理士のように独占業務があるわけでもありませんし、会計事務所を独立開業することもできません。
そこで本記事では、簿記1級があっても食いっぱぐれる理由、逆に簿記1級は何に役立つのか?を解説します。
ネット上の出鱈目な情報に惑わされないよう、お気を付けください。
※ もちろん簿記1級のネガキャンをしたいわけではなく、事実を示したいだけです。
この記事で分かること
- 簿記1級を使えるシチュエーションは限定的
- 上場経理への転職・就職なら、簿記1級はかなり強い
- 公認会計士試験挑戦への腕試しとして、簿記1級は役立つ
- 税理士試験の受験資格にも簿記1級は使える
- 東京の経理だと、簿記1級を取ることで年収が60~70万上がる
2010年 日商簿記検定1級 取得
2013年 公認会計士試験(論文式) 合格
2014年 EY新日本監査法人 入社
2018年 中堅会計事務所 入社
2019年 藤沼会計事務所 開業
2020年 アカウントエージェント㈱ 設立
経理支援サービス会社を経営しています。
簿記1級があっても食いっぱぐれる理由
簿記1級があっても、食いっぱぐれないわけがありません。
理由は主に3つあります。
それぞれ解説します。
独占業務がない|結局のところ民間の検定資格にすぎない
簿記1級は民間の検定資格であり、取得したとしても「独占業務」はありません。
たとえば公認会計士なら「会計監査」、税理士なら「税務相談」など、国家資格には法的に有資格者でなければ提供してはならない業務・サービスが定められています。
そのため、公認会計士や税理士は特定の業務を独占でき、食いっぱぐれる心配がないのです。
簿記1級にはこのような法的に規制された業務が存在しないため、単なる知識の証明にしかならないのです。
確かに簿記1級は難しい試験です。私も勉強したので十分理解しています。
しかし、市場での評価は所詮そんなものです。
求人が少ない|簿記2級よりも年収は上がるが需要は減る
驚くかもしれませんが、実は簿記1級を使うと応募できる求人が減ります。
実際に大手転職エージェントの求人票を集計してみれば、一目瞭然です。
職種 | 簿記1級 | 簿記2級 | 減少率 |
---|---|---|---|
会計事務所 | 369件 | 1,074件 | 65.6% |
経理 | 297件 | 870件 | 65.9% |
コンサル | 90件 | 237件 | 62.0% |
経営企画 | 17件 | 41件 | 58.5% |
内部監査 | 10件 | 26件 | 61.5% |
監査法人 | 15件 | 15件 | – |
(合計) | 798件 | 2,263件 | 64.7% |
上記は、大手会計税務系の転職エージェントの求人を「簿記1級」「簿記2級」それぞれ抽出し、職種別に集計した結果です。
簿記2級→簿記1級になると、全体として60%以上も求人が減ります。
これは、企業が簿記1級ほどの資格を必要としないことの表れと言えるでしょう。
つまり、需要が少ないんです。
需要が少ないのですから、食いっぱぐれますよね。
(ちなみに、「年収」については簿記2級よりも簿記1級の方が60万以上高くなります。)
多くの場合に実務経験のほうが重視される|資格は座学でしかない
会計税務の業界では、資格よりも実務経験のほうが重視されます。
実務経験 >>>>> 資格
本当にこんなイメージです。
私は会計事務所を経営していますが、断然、実務経験者を評価します。
だって即戦力になりますし、すぐ売上に繋がるからです。
つまり、簿記1級を取ったところで実務経験がなければさほど評価されず、簿記1級だけで一生安泰なんてことは有り得ません。
また、実務経験があっても一緒です。
先述のとおり、この業界では資格よりも実務経験のほうが評価されますので、実務経験を積んだ段階で簿記1級の利用価値がなくなるのです。
実務経験を積んでしまえば、履歴書に簿記1級を書いても書かなくても評価は変わらないはずです。
逆に簿記1級は何に役立つのか?
ここまでボロカス言いましたが、決して簿記1級を取る意味がないわけではありません。
一部の方にとっては、簿記1級は役立ちます。
それぞれ解説します。
上場経理での仕事に役立つ|連結会計への理解は即戦力になる
「簿記1級を仕事に役立たせる」という意味では、唯一、上場経理での仕事で役立たせることができます。
というのも、上場企業では連結決算が義務化されており、簿記1級で学習する「連結会計」の知識が求められるからです。
また、上場会社では金融商品取引法が適用され、より会計処理が厳格化されているため、(連結会計に限らず)高度な会計知識が要求されます。
そのため、上場経理においては簿記1級の知識をフルに役立たせることができます。
公認会計士・税理士への適正判断に役立つ|いきなり目指すと失敗する
簿記1級は「公認会計士・税理士への登竜門」と呼ばれており、公認会計士試験・税理士試験への適性判断に用いられることがあります。
私自身も、自分に公認会計士受験への適正があるかを確認するため、まずは簿記1級の取得から目指しました。
なお、簿記1級の内容は公認会計士試験の範囲に全て含まれているため、ムダな範囲を学習してしまう心配もありません。
税理士試験の受験資格獲得に役立つ|税法科目の要件をクリアできる
税理士試験では、税法科目について受験資格が求められます。
税理士試験の受験資格はややハードルが高く、「大学での所定単位の取得」や「会計事務所等での3年以上の実務経験」などが要件として求められています。
これらの要件を満たすためには多くの時間を費やしますが、最も短期間で満たせると考えられる要件が「日商簿記1級の取得」です。
日商簿記1級の取得には半年~1年程度かかるものの、条件を満たすための期間としては(他の要件に比べれば)短く、早期に税法科目を受験できるようになります。
なお、税理士試験科目のうち会計科目(簿記論・財務諸表論)については受験資格が不要で、誰でも受験することができます。
本気の方は会計事務所で働きながら税理士を目指すため、会計科目の勉強をしながら実務経験を積み、3年経過後には税法科目への受験資格が手に入るため、わざわざ簿記1級を取得する必要がありません。
私が簿記1級を取ってよかったと感じたこと
私自身の体験において、簿記1級を取ってよかったと感じたことが2つあります。
それぞれ解説します。
公認会計士受験への自信に繋がった|一番大きなメリットだと感じた
私には、将来公認会計士になりたい目標がありました。
しかし、自分自身の学力に自信がなかったため、いきなり公認会計士を目指すことに抵抗がありました。
そこで、まず簿記1級にチャレンジしてみて、合格できるようなら公認会計士を目指そうと考えました。
結果、なんとか簿記1級に合格でき、そこで自信が付いたため公認会計士試験への挑戦に踏み切ることができました。
正直遠回りだったとは思っていますが、自分にとっては大切な一歩でした。
独立後に簿記1級の講師として働けた|活用ケースは極めて限定的
全く想定していませんでしたが、独立後、簿記1級取得の経験を活かして簿記講師の仕事をすることができました。
独立開業直後は、クライアントもいないため、正直ヒマな時間が多いです。
そんな時にたまたま簿記講師のお誘いがあり、簿記1級取得の経験を活かすことができました。
もちろん公認会計士資格さえあれば(簿記1級を持っていなくとも)講師はできると思いますが、簿記1級の難しさを理解しているため、より受講生に寄り添った指導ができたと思っています。
簿記1級を取ると年収はいくらになる?
実務経験なしの方が簿記1級を取得し、各職種に転職した時の年収をお見せします。
なお、ここでは簿記1級の価値をお見せするために、簿記2級の年収も併記しています。
職種 | 地域 | 簿記1級 | 簿記2級 |
---|---|---|---|
経理 | 東京 | 543万円 | 479万円 |
その他 | 436万円 | 425万円 | |
会計事務所 | 東京 | 461万円 | 458万円 |
その他 | 445万円 | 460万円 | |
コンサル | 東京 | 552万円 | 614万円 |
その他 | 689万円 | 595万円 | |
経営企画 | 東京 | 650万円 | 650万円 |
その他 | 550万円 | – | |
内部監査 | 東京 | 597万円 | – |
その他 | 550万円 | – | |
監査法人 | 東京 | 700万円 | 700万円 |
その他 | 550万円 | 550万円 |
見てのとおり、分かりやすく変わっているのは東京での経理です。
東京には上場会社が集中しているため、連結会計の知識が求められやすく、簿記1級へのニーズも強いようです。
簿記1級の年収について、詳しくは次の記事内で細かくお見せしています。
簿記1級資格に関するよくある疑問
その他、簿記1級資格に関するよくある疑問をまとめました。
簿記一級は希少性が高いですか?
はい。簿記一級の希少性は高いです。
ただし需要は少ないため、結果として簿記1級を活かせるシチュエーションは限定的と言えます。
日商簿記1級はどれくらいすごい資格ですか?
日商簿記1級は合格率が約10%前後で推移しており、10人に1人しか合格しない難関資格です。
受験生の中には公認会計士受験生・税理士受験生などの猛者たちが含まれているため、想像以上に難易度は高いです。
簿記1級が難しいのはなぜですか?
簿記1級が難しい理由は、次のとおりです。
- 学習範囲が広い
- 合格率が低い(毎年10%前後)
- 理解の難解な論点が多い
- 受験生のレベルが高い
簿記1級は簿記2級までとは異なり、理解の難解な論点が多いため独学での取得はかなり難しいです。
私自身も独学で簿記1級に挑んだことがありますが、50点しか取れず落ちました。
日商簿記1級と簿記論はどちらが難しいですか?
私は両方の試験に合格していますが、難易度はほぼ同じだと感じました。
簿記論のほうが知識の深さ・計算スピードの速さを求められますが、日商簿記1級よりも学習範囲自体は狭いです。
簿記1級を持っている芸能人はいますか?
簿記1級を持っている芸能人は、次のとおりです。
- 小西博之(俳優)
- 中田英寿(元プロサッカー選手)
- 吉田修司(元プロ野球選手)
- 勝間和代(公認会計士)
中田さんはご自身で公表していないものの、山形県立上山明新館高校の校長先生が式辞において明言しています。
簿記1級は天才しか取れませんか?
いいえ。全くそんなことはありません。
大学時代、偏差値40だった私が(独学半年・予備校半年で)取得できているので、誰でも取得できる資格です。
簿記1級を取れる人は頭がいいですか?
頭がいいの定義が分かりませんが、人並み以上の努力をしたことの証明にはなります。
特に学生時代に簿記1級を取得できる方は、遊び等の誘惑に負けず、勉学に励むことのできたことの証明になります。
簿記1級を取っても無職になることってありますか?
はい。有り得ます。
簿記1級には独占業務がない等の理由により、食いっぱぐれる可能性があります。
簿記1級があれば人生変わる?
いいえ、簿記1級を取っただけで人生は変わりません。
簿記1級は単なる資格に過ぎず、資格の取得は目的ではなく手段です。
簿記1級をどう活かすかによって、人生は変わります。
簿記一級のすごさとは?
簿記一級のすごいところは、多くの勉強時間が必要になる点でしょう。
特に学生時代に取得できる方は、勤勉で志も高いことが分かります。
簿記1級って最強の資格ですか?
そうは思いません。
簿記1級は汎用性が低く、中途半端な資格であると感じます。
確かに簿記2級よりも難易度は高く希少価値は高いですが、活かせるシチュエーションが限定的であり、コストパフォーマンスの面では簿記2級に劣ります。
上場経理を目指す方にはオススメの資格ですが、それ以外の方にはさほど役立たない印象です。
「簿記1級を目指すのはやめとけ」と言われたんですが…
上場経理を目指す人以外には、私も簿記1級はやめとけとアドバイスします。
なぜなら、簿記1級を取得するメリットが少ないからです。
簿記1級は難易度が高く、取得に多くの時間を費やします。
目指す前に、しっかりと検討すべきです。
オススメの食いっぱぐれない資格は?
オススメの食いっぱぐれない資格は、公認会計士です。
公認会計士業界は超売り手市場であり、30代までに合格できれば大手監査法人に入社できますし、転職においてもほぼどこでも入社できます。
近年は社会人として働きながら公認会計士になる人が増えており、何と、2023年の公認会計士試験では会計事務所職員の合格率が学生・無職受験生の合格率を上回り、最も高い合格率になりました。
【必見】監査法人で働きながら会計士を目指せる驚きの手法
意外と知られていませんが、実は公認会計士試験に合格せずとも監査法人で働き、かつ受験補助(予備校代の補助等)を受けながら会計士を目指せる制度があります。
それが、近年始まった「監査トレーニー」という制度です。
この制度を利用することで、職歴に穴を開けることなく、高い予備校代も支援をうけながら、そして「監査」という実務を学びながら公認会計士を目指すことができます。
どうせ簿記1級を目指すなら、いっそのこと監査トレーニー制度を使って会計士を目指してはどうでしょう?
私は公認会計士になって、文字通り人生が一変しました。
そんな人生を逆転させることができるのが、公認会計士という資格です。
監査トレーニーについて、詳しくは次の記事内で詳しくお話しています。
初めて聞いたという方もおられるでしょう。
穴場なのでオススメの制度ですよ。
1988年生まれ(36歳)
公認会計士・税理士
2012年 日商簿記1級 合格
2013年 公認会計士試験(論文式) 合格
2014年 EY新日本監査法人 入社
2021年 ニューラルグループ株式会社 入社
2024年 ARMS会計株式会社 代表取締役
前職では上場会社の経理部長として勤務し、現在は経理・財務支援サービス会社を経営しています。