MENU

ほとんどの人に「簿記1級はやめとけ」と言いたい理由【公認会計士が解説】

公認会計士の藤沼です。

2010年6月に日商簿記1級を取得し、その後すぐ公認会計士を目指し、3年後に無事合格し、現在は独立し会社経営しています。

今の自分がいるのは、間違いなく当時簿記1級に合格できたからです。

簿記1級を取ったことで、私の人生は変わったと思います。

でも、私はほとんどの人に「簿記1級はやめたほうがいいよ」と言っています。

理由は明白で、大半の人にとって簿記1級は意味のない資格だからです。

予備校は簿記1級がいかに魅力的かを語り、取得・受講を勧めますが、むしろ限りある人生の時間をムダにする可能性さえあります。

もし、これから簿記1級を取得しようか考えている方がいたら、ぜひ慎重に考えてください。

本記事では、そんな「簿記1級はやめとけ」と言われる理由を解説し、逆にどんな人にはオススメかお話します。

この記事の執筆者
藤沼 寛夫

公認会計士・税理士

藤沼 寛夫›

藤沼会計事務所 所長
アカウントエージェント株式会社 代表取締役

2013年に公認会計士論文式試験に合格し、2014年にEY新日本有限責任監査法人に入所。上場会社・学校法人・上場準備会社の会計監査業務に従事し、2018年に東京共同会計事務所に転職。広くFASに関与し、2019年に藤沼会計事務所を独立開業。翌2020年にはアカウントエージェント株式会社を設立し、会計税務コンサルティング及び会計税務に関する転職支援サービスを提供している。

目次

私がほとんどの人に「簿記1級はやめとけ」と言っている理由

筆者がほとんどの人に「簿記1級はやめとけ」と言っている理由は、次のとおりです。

以下、それぞれ解説します。

上場企業・大会社の経理以外ではオーバースペック

日商簿記1級資格は、「上場企業」または「大会社」以外の経理ではオーバースペックな知識です。

理由は以下の通りです。

簿記1級が上場企業・大会社以外の経理でオーバースペックとなる理由
  • 簿記1級で主に学習する「連結会計」の知識は、ほぼ上場企業でしか使えない
  • 上場企業・大会社以外では「税務基準」での会計処理を行うため、商業簿記・会計学を極める必要がない
  • 会計事務所においても「税務基準」で仕訳を切るため、簿記2級レベルの知識で十分

まず、簿記1級で主に学習する「連結会計」ですが、この知識はほぼ上場企業でしか活用できません。

なぜなら、連結決算を義務付けられるのは上場企業(かつ大会社)だけだからです。

第四百四十四条

3 事業年度の末日において大会社であって金融商品取引法第二十四条第一項の規定により有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならないものは、当該事業年度に係る連結計算書類を作成しなければならない。

引用:会社法第444条3項

もちろん、任意で連結決算を行う会社もあるとは思いますが、多くの手間とコストを要するため極めて例外的です。

そのため、上場経理以外において連結会計の知識を使うことはほとんどありません。

次に、日商簿記1級の試験科目である「商業簿記」「会計学」は、主に上場企業・大会社を前提とした知識であり、その他の会社ではあまり活用しません。

会社会計処理のベース必要な知識
上場企業金融商品取引法商業簿記・会計学
大会社※会社法商業簿記・会計学
その他の会社法人税法法人税法

日商簿記で学習する内容は「金融商品取引法」「会社法」を前提としていますが、上場企業・大会社以外の会社では、そもそも「法人税法」に則って会計処理を行うため、日商簿記の知識を深掘りして学習する必要性があまりありません。

そのため、「上場企業」「大会社」以外の経理で働く場合、簿記1級の知識はオーバースペックです。

そして、会計事務所(税理士法人)においても法人税法に則って仕訳を起票しますから、同様に簿記1級の知識までは必要とされません。

簿記1級を活かせる仕事自体は全10種類ありますが、フル活用できるのは「上場経理」「大会社の経理」に限られます

難易度が非常に高い|ただし近年は合格率が高まっている

簿記1級を活かせるシチュエーションは限定的ですが、一方で、取得の難易度は非常に高いです。

以下は、直近10回の簿記1級試験の合格率推移です。

スクロールできます
回申込者数受験者数合格者数合格率
173(2026.06.14)11,959名9,806名2,076名21.2%
171(2025.11.16)13,088名10,524名1,604名15.2%
170(2025.06.08)11,827名9,610名1,343名14.0%
168(2024.11.17)12,939名10,420名1,572名15.1%
167(2024.06.09)11,798名9,457名992名10.5%
165(2023.11.19)12,886名10,251名1,722名16.8%
164(2023.06.11)11,468名9,295名1,164名12.5%
162(2022.11.20)12,286名9,828名1,027名10.4%
161(2022.06.12)11,002名8,918名902名10.1%
159(2021.11.21)11,389名9,194名935名10.2%
出典:1級受験者データ(統一試験)|日本商工会議所

以前は、日商簿記1級試験の合格率は10%前後で推移していました。合格率だけで見ても、難関であることが分かるでしょう。

また、加えてこの簿記1級合格者の中には公認会計士試験受験生が多く含まれていることに留意が必要です。

簿記1級は公認会計士受験生の力試し的なポジションに位置する資格であり、公認会計士試験の短答式(=1次試験)合格レベルの人は、基本的に合格します。(かなりの余裕を持って合格します。)

このような優秀な受験生がライバルに含まれるため、体感的な難易度は更に高いと感じるはずです。

なお、日商簿記1級の合格率は、2024年11月の試験以降で15~20%程度まで上昇しています。

合格率を上げることは資格そのものの価値を下げることにも繋がるため、日本商工会議所側も何らかの意図をもって、意図的に合格率を上げているものと考えられます。

合格率の上昇理由は公式には明らかにされていませんが、筆者の推測では、税理士試験の受験資格としての価値が低下したことが理由と考えています。
従来、日商簿記1級は税理士試験の受験資格要件として機能していました。しかし、2023年8月の税理士試験からは「会計科目」の受験資格要件が撤廃され、日商簿記1級がなくとも誰でも受験可能になりました。
これにより簿記1級の受験生が減少することを危惧し、合格率を高めたのではと推測しています。

合格までに平均600~800時間の勉強時間を要する

簿記1級は難易度が高いだけでなく、合格に平均600~800時間という多くの勉強時間を要します。

簿記は基本的に毎日勉強する必要があり、1日あたりの勉強時間を3時間と設定するなら、200日~270日要する計算です。

簿記1級合格の裏には、これだけの努力を積み重ねる必要があります。

この努力を継続することが難しく、途中で断念してしまう方が多いです。

もちろん、明確な目的があって簿記1級を目指すのであれば、モチベーションは続きますし毎日勉強する意義もあります。

しかし、何の目的意識もなく勉強をすると、限りある人生の時間をムダにする可能性があります。

予備校の受講料が高い|独学合格はほぼ無理

大手予備校の簿記1級講座受講料は、凡そ15万円~20万円です。

後述しますが、簿記1級の取得は特定の方にオススメできる一方、大半の方にはオススメできません。

高い受講料を払っても、合格できるかどうかは分かりません。

このデメリット・メリットを天秤にかけ、メリットがデメリットを上回ると感じた方は、簿記1級の取得にトライすると良いでしょう。

ちなみに「CPAラーニング」という無料サービスもありますが、筆者はあまりオススメしません。
タダより高いものは無いと思っています。

簿記1級の取得をオススメする人

一方で、簿記1級の取得がオススメの方もいます。

以下、それぞれ解説します。

公認会計士試験の適性を判断したい人

日商簿記1級試験は、「公認会計士試験」にチャレンジしたい方にとっての適性判断ツールとして最適です。

公認会計士試験は、合格に3,000時間~8,000時間かかる超難関試験です。

筆者の場合は、3年間で合計7,000時間を要しました。

学力に自信のある方は、簿記1級を目指さずいきなり公認会計士を目指しても良いと思います。

しかし、筆者のような学力に自信のない受験生にとって、いきなり公認会計士を目指すことには大きなリスクを伴います。

いきなり公認会計士を目指すことのリスク
  • 公認会計士受験を断念した場合、それまで勉強した時間がムダになる
  • 公認会計士受験を断念した場合、それまで勉強した費用がムダになる
  • 公認会計士受験を断念した場合、それまで勉強した労力がムダになる

これらのリスクを極力排除するために、簿記1級の受験を「適性判断ツール」として活用することで、合格できたら公認会計士を目指すという判断ができます。

筆者の場合も、いきなり公認会計士を目指すことにリスクを感じたため、まずは簿記1級の取得を目指し、合格できたため公認会計士受験にチャレンジしました。

なお、現在は「監査トレーニー」という制度があるため、簿記1級のメリットが薄れてきています。

将来的に上場企業・大会社の経理部に転職したい人

将来的に上場企業・大会社の経理に転職したい方には、簿記1級の取得をオススメします。

なぜなら、上場企業・大会社の経理では簿記1級で学習する「連結会計」の知識を活用できる可能性があり、高く評価されやすいからです。

実際、求人票の応募要件に「簿記1級」を加えている上場企業はあります。

上場企業・大会社での経理経験は、その他の会計系職種(コンサルやアドバイザリーなど)においても評価されやすく、会計人としてのキャリア形成に大きく寄与します。

このため、将来上場企業・大会社の経理への転職を考えている方には、簿記1級の取得をオススメできます。

経理部員としての年収を高めたい人|簿記2級→簿記1級で年収が40万円上がる

事実、経理部員が簿記1級を取得すると年収は上がります。

以下は、転職エージェントが掲載している経理求人の「年収」を、資格別に並べた比較表です。

経理部の資格別年収

簿記1級簿記2級簿記3級
平均年収646 万円606 万円513 万円
求人数721 件1,123 件254 件
ヒュープロの公開求人を弊社で独自に集計

上記のとおり、簿記2級→簿記1級で年収は40万円上がることが分かります。月あたり3.3万円UPの計算です。

経理以外の職種では簿記1級の年収はここまで上がりませんが、経理においては年収UPへの貢献割合が非常に高いです。

そのため、経理部員としての年収を高めたい方には、簿記1級の取得をオススメできます。

簿記1級やめとけに関するよくある質問

簿記1級を取れば人生変わりますか?

いいえ、簿記1級を取っただけで人生は変わりません。

簿記1級取得は過程に過ぎず、人生を変えるためにはその先を考える必要があります。

筆者の場合は、その先に公認会計士試験合格を見据えており、合格後に文字通り人生が変わりました。

簿記1級を取れば食いっぱぐれないですか?

いいえ、簿記1級を取っても食いっぱぐれる人はいます。

なぜなら、簿記1級はあくまで民間の検定資格であり、公認会計士の「会計監査」や税理士の「税務相談」のような独占業務がないからです。

加えて、会計税務の業界では資格よりも実務経験のほうが(相対的に)高く評価されます。

私自身も会計事務所を経営していますが、採用時に見るのは簿記1級の有無ではなく実務経験の有無です。

そのため、簿記1級は「持っていれば安泰」の資格ではなく、取得後に何をするかで価値が決まる資格だと言えます。

簿記1級って意味ないですか?

はい。簿記1級は大半の方にとって意味のない資格です。

ただし、以下の方には簿記1級を取る価値があります。

  • 公認会計士試験の適性を判断したい人
  • 将来的に上場会社・大会社の経理部に転職したい人
  • 経理部員としての年収を高めたい人

上記以外の方には、簿記1級を取る意味がほとんどありません。

簿記1級は天才にしか取れませんか?

いいえ、簿記1級は努力次第で誰でも取得可能な資格です。

実際、私は偏差値43くらいの大学(学部学科)を卒業しており、また2回も留年しており、頭が良いわけではありません。

地頭の良さだけでなく、戦略の立て方などで合格を狙えるのが簿記1級です。

簿記1級を取ってよかったですか?

はい。私は簿記1級を取ってよかったです。

取っていなかったら3年後に公認会計士に合格していなかったですし、合格後5年で独立することもありませんでした。

会計人としての人生の出発点として、簿記1級の取得は最高のスタートでした。

【必見】働きながら公認会計士を目指せる手法

公認会計士を目指すことには、以下のリスクがあります。

公認会計士を目指すことのリスク
  1. 試験に受かっても監査法人に就職できない可能性がある
  2. 予備校代が高く、落ちたらまた1年分課金しなければならない
  3. 無職専念になると、職歴に空白期間ができてしまう
  4. 実務が分からずに勉強をするため、特に「監査論」の学習がなかなか進まない

しかし、このリスクを全て払拭し、最小限のリスクで公認会計士を目指せる手法があります。

それが、「監査トレーニー」という制度を利用する方法です。

監査トレーニー制度とは、監査法人で働きながら公認会計士を目指すことのできる制度をいいます。

受験生を採用した監査法人では、予備校代の補助を支給するケースが多く、当然勤務時間に見合った給与も支給されます。

合格後は就活をせずそのまま監査法人で働き続けることができるため、就職不安も心配ありません。

雇用形態は「フルタイム」のケースもあれば、「アルバイト雇用」として日数を減らせるケースもあり、法人によって制度が異なります。

非常にお得な制度ですが、意外と知られていない制度なので、「この記事を見て初めて知った」という方もいるかもしれませんね。

監査トレーニーについて、詳しくは次の記事で詳細に解説しています。

目次